(※写真はイメージです/PIXTA)

部下や同僚、家族など、周囲の人々をメンタル不調から守るにはどうすればよいのでしょうか? 他人の悩みを聞いたり、相談に乗ったりするのにはコツが必要です。パワハラに繋がる恐れもある「12の悪いコミュニケーション」を基に、人間関係に起因するメンタル不調を防ぎ、人間関係の好転にも繋がる対処法を見ていきましょう。“メンタル産業医学”の創設者として知られる櫻澤博文医師(合同会社パラゴン代表社員)が解説します。

「同意」や「助言」等はパワハラに繋がることも

これまで計4回にわたり、トーマス・ゴードンによる「12の悪いコミュニケーション」に沿って、部下のメンタル不調を招きかねない「パワハラになるコミュニケーション」の例を紹介してきました。

 

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<悪いコミュニケーションの12区分>

1 命令や指示、指図

2 警告、注意、脅迫

3 助言、提案、解決策の呈示

4 論理的に説得、解説のうえ同意を得る

5 説教

6 反対、批評、批判、非難

7 同意、承認、賞賛

8 侮辱、愚弄、レッテル貼り

9 解釈、分析

10 安心させる、同情、慰め

11 質問、探り、尋問

12 話題変更、話題反らし、ご機嫌取り

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上記12のコミュニケーションがどうしてよろしくないのか、釈然としない方は多くいらっしゃるでしょう。私も当初はそうでした。そこで、なぜいけないのかを新たな視点で確認してみましょう。

共通概念は「非受容」

上記のうち1~5については、3の「助言」や「解決策提示」の4の「論理的説得」も含めて、“あなたの代わりに私が対応を教えてあげる。あなたは解決策さえ考えられないようだから”といった、いわゆる上から目線で対応しているというメッセージを相手に伝えてしまう恐れがあります。

 

6~11については、7の「同意」や「賞賛」、9の「解釈」「分析」、10の「同情」や「説得」でも、相手そのものを受容しているというよりは、“あなたと私とは別!”と突き放したような、いうならば“あなたはおかしいのではないか?”といった批判を暗に伝えてしまう恐れがあります。

 

12の「話題変更」や「ご機嫌取り」については、“その話はもう聞きたくない”“関心がない”といった拒否の念を示していると受け取られかねない恐れがあります。

解決のカギは「受容」

以上の解釈を読まれてみると、当初に感じた「そうなのか!?」がすんなりと「確かにそうだ!」となりませんでしょうか。以上の12のパターンはすべて、“私はあなたを受容していない”というメッセージを伝えていることが理解できたでしょう。

 

そうなのです。部下や同僚はおろか、妻や子供であっても他人です。相談してきた相手が感じ、考えていることを、自身のこころや気持ちで理解するには、その他人がどう感じたのか、どのように考えたのか、あたかもそのまま、ありのままを追体験するような態度や覚悟で臨むことが基盤として必須となります。

 

「どう感じたのか」は他人の感覚や感情を感じ直すことです。

「どのように考えたのか」は他人の思考や考察を事実として把握することです。

 

9の「解釈」も「分析」も、7の「賞賛」や「同意」を行う前に、他人が抱く思考や感情が事実であり真実であることを、聞き手側がまず受け入れなければなりません。そうです、「受容」です。他人の思考や感情を受容することこそ、相談者の言外の思考・感情を理解しえたことを示す態度や行動なのです。

受容していることを態度・行動を示すには?

さて、ここから紹介するのは、青雲の志を抱く部下の「成長したい」とか「自分を試したい」といった気持ちを上手に引き出しつつ、自分自身も支援者としてラクに、部下や子ども、さらには伴侶にまで行動変容を促せるようになる方法です。

 

アラフィフの読者であれば、NHKアニメ『名犬ジョリィ』が記憶にあるでしょう。エンディングテーマで、主人公の悩みは『ふたりで半分こ』とあったように、『名犬ジョリィ』は悩みを半減しえる方法を教示しています。

 

■1. 傍にいるという安心・安寧感を示す

オンライン面談や電話であっても、「私はここにいて、いつでも/何時まで あなたの対応させてもらいます」と表明することで、傍にいるよという安心感や安寧感を示すことは可能です。

 

■2. 注意を払っているという態度を示す

オンライン面談だと、通常は画面に映された相談相手の顔を見ながら会話するために、視線が合いにくいと感じるかもしれません。しかしオンライン面談の場合でも、いわゆる「カメラ目線」を使えば容易です。画面内の相手の顔でなくカメラのほうを視ながら、そして、その際に頭を前に傾けて頷くことで、相談相手に対して注意を払っていることが示せます。

 

■3. 黙って聴くことに徹する

「聞こえてくる」ことと「聴くようにする」こととは違います。一口に「きく」といっても、門構えの中に耳がある「聞く」もあれば、心が込められている「聴く」もあります。さらに「積極的傾聴」とは、「聴く」ことを徹底させることを示します。

 

この「積極的傾聴」を表現するならば、「聴く」ことしかせず喋ることはしないという、いわば「沈黙」…黙って聴くようにする、ということです。フジテレビ系のドラマ『silent』第6話で、難病を患う主人公・佐倉創が、自分に色々な制度や手段、方法を紹介するのではなく、自身の抱く辛さや困難さをわかってもらうために、ただ話を聴いてもらいたかったことを吐露するシーンが描かれていました。

 

聴力が喪失していくという大変な戸惑いの中にあるのみならず、大切なサッカー仲間や恋人さえも失っていくという悲劇の中にある創でも「ただ聴いて欲しかった」。

 

そうなのです。ここでも、積極的傾聴がいかに大切なのかが描写されています。

 

なお、日経新聞朝刊のコラムでも取り上げられるくらいに我々の心を切なくさせ、多くの方々の涙腺を「崩壊」させていることが、十分に理解しえました。

 

名犬ジョリィも、傍にいて沈黙しているだけで、主人公の悩みは半減されたわけです。

 

 

【参考文献等】

トーマス・ゴードン著、近藤千恵訳『ゴードン博士の人間関係をよくする本 自分を活かす 相手を活かす』(大和書房、2002年)

 

東京カウンセリングオフィス『クライエント中心療法』(https://tokyoco.jp/motivation-interview/)

 

 

櫻澤 博文

医師

労働衛生コンサルタント

日本産業衛生学会指導医

合同会社パラゴン 代表社員

 

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※本記事は、オンライン診療対応クリニック/病院の検索サイト『イシャチョク』掲載の記事を転載したものです。