(※写真はイメージです/PIXTA)

不動産所有者が亡くなった際に、登記名義を変更する相続登記。面倒がって放置していると、のちのち思わぬ憂き目に遭うかもしれません。今回は優司法書士法人、上村拓郎代表のもとへ相談のあった、兄が行方不明となったことで、弟が亡父名義の不動産を売却できなくなってしまった事例を紹介します。
※本連載は、上村拓郎氏の著書『相続をちょっとシンプルに: 気づきをうながすためのケアフル相続入門』(灯光舎)から一部を抜粋し、幻冬舎ゴールドオンライン編集部が本文を一部改変しております。

相続人のひとりである兄が行方不明

※以降の事例の人名はすべて仮名です。

 

20年程前に亡くなった父親の名義になっている不動産を売却しようとした依頼者・高橋健一さんの事例を紹介します。不動産屋に行って、売ろうとしたときにいろいろと問題があり、想像以上に時間や費用を費やすことになった話です。

 

高橋健一さん曰く、「20年程前に父親が亡くなったときは、四人の相続人全員で話し合いをして、自分(健一)が承継することで、全員の承諾を得ることができていた」とのことです。なるほど、そのときに登記手続きをしていたら何の問題もなかったのでしょうし、僕の事務所をお訪ねになることもなかったかもしれません。「登記をしないといけない」とお気づきになられたことはよかったと思うのですが……。

 

しかし、月日が経ち、四人の相続人それぞれの人生が大きく変化するなかで、健一さんの兄・豊さんが数年前から行方がわからなくなってしまったのです。年に一度くらい、豊さんの姿を見かけたという情報はあるそうですが、健一さんが実際に豊さんを見ることはなく、連絡手段もない。いざ、相続登記の手続きをするにもまったく進めることができなくなり、当事務所にお見えになりました。

 

まず、健一さんに登記の所有権を移転する場合は、遺産分割協議が必要です。しかし、この状況では豊さんを交えた遺産分割協議が進められるわけもなく、通常の相続登記以上に手続きはややこしくなる。まずは、裁判所で不在者財産管理人という豊さんの財産を代わりに管理する役目をもつ人を選任します。その管理人を含めた相続人全員で、遺産分割協議をして解決しました。

 

結局、所有者(父親)が亡くなった当時に相続人の間で決めた「健一さんがすべての財産を承継する」ことはできませんでした。なぜなら、豊さんの代理人となる不在者財産管理人は、豊さんの法律上認められた権利を満たすことを目的として、遺産分割協議に参加(権限外行為の許可を得て)します。

 

つまり財産を相続人の間で分け合うこと、豊さんの法定相続分の取得を主張する立場でないといけないのです。結果は、健一さんから豊さんに法定相続分のお金を支払うということになりました。

 

健一さんに相続が決まった段階で、すぐ法的な手続きをしていれば、状況はかわっていたでしょう。病気について、早期発見・早期治療という標語がありますが、登記手続きも同様に鉄は熱いうちに打ちたい。話し合いができた段階で、登記手続きもあわせて進めるべきだと思います。すぐ手続きをしておけばスムーズに進められたことが、時間が経過してしまったことで相続人の事情が変わってしまい、手続きがむずかしくなるケースが散見されます。

 

そして、「不在者財産管理人」の存在のデメリットは紹介したとおりです。健一さんの気持ちを考えると、納得いかないこともあるでしょう。そして豊さんの権利を確保するための時間や費用を支払うことにも、きっとストレスを感じることでしょう。なので、相続登記はできるだけ早いうちにすましておくことが肝要となります。また、すでに推定相続人に行方不明者がいるといった場合には、被相続人が遺言書を書き記しておくなどの事前の対策が必要になります。

 

 

上村 拓郎

優司法書士法人 代表社員

 

【関連記事】

■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】

 

■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】

 

■恐ろしい…銀行が「100万円を定期預金しませんか」と言うワケ

 

■47都道府県「NHK受信料不払いランキング」東京・大阪・沖縄がワーストを爆走

 

※本連載は、上村拓郎氏の著書『相続をちょっとシンプルに: 気づきをうながすためのケアフル相続入門』(灯光舎)より一部を抜粋・再編集したものです。

相続をちょっとシンプルに 気づきをうながすためのケアフル相続入門

相続をちょっとシンプルに 気づきをうながすためのケアフル相続入門

上村 拓郎

灯光舎

自分だけでなく、家族や身のまわりの人たちと一緒に相続を考えるきっかけにしてもらいたい本。 本書は、相続対策の実務よりも、まずは相続を知るために「読む」ことを意識した相続エッセイです。相続は発生してからではなく、…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録