肩こり・五十肩・頸部痛…人類が「自由に動く肩関節」と引き換えに得た〈ツラい諸症状〉【整形外科医が解説】

肩こり・五十肩・頸部痛…人類が「自由に動く肩関節」と引き換えに得た〈ツラい諸症状〉【整形外科医が解説】

人類が進化の過程で二足歩行となったことで人類の腕は自由になり、可動域は類を見ないほど広く、また、多彩な動作が可能になりました。しかしその一方で、常に腕の重さがかかる肩には大きな負担となり、それが原因の身体的な痛み・苦しみも起こりやすくなっています。肩関節の仕組みについて、ベテラン整形外科医が解説します。

「宙に浮いた亀の甲羅」にたとえられる肩甲骨

肩甲骨は三角形の板状の骨であり、外側端にある盃状の関節窩と後方からブーメラン形状に伸びた肩峰、そして前方に太く短く突出して烏口突起からなる特殊な関節です。

 

肩甲骨の名前の由来は「肩に亀の甲羅を背負っている」ことから来ています。英語ではscapulaと呼び、ギリシャ語の「スカプトー(掘る)」が由来となっています。

 

肩甲骨は盃状の関節窩と上腕骨で「肩甲上腕関節」を作り、肩峰と鎖骨で「肩鎖関節」を作りますが、三角形の板状本体と接する肋骨とは関節を作りません

 

骨性の制動はありませんが、前鋸筋と肩甲下筋が介在し、肩甲骨を胸郭に引き寄せています。したがって、体幹とは、小さな肩鎖関節としか繋がっていないため、「宙に浮いた亀の甲羅」ともいわれています。とはいえ、宙に浮いた肩甲骨では、腕の重みで落ちてしまいますよね。

 

[図表3]肩甲骨周辺の構造

「肩関節の〈困った亀〉を助けるぞ」…浦島太郎出現!?

そこで、肩甲骨を引き上げるために背側の筋肉が進化しました。上位頸椎から肩甲骨内側上位に「肩甲挙筋」、下位頸椎と上位胸椎から肩甲骨内側下位に「菱形筋」が深層に付着し、そして頭蓋骨下位と上位脊椎から肩甲骨全面を覆うように「僧帽筋」が浅層に発達して、肩甲骨が落ちないように引っ張り上げて助けています。なので、背側筋群「亀を助けた浦島太郎」といえますね。

 

[図表4]肩甲骨と背側筋群の構造

 

しかし、腕の重さによって頸と胸部の背筋は常に緊張しているため、中高年を中心に苦しむ、頸部痛、肩こり、五十肩の原因ともなります。

親亀(肩甲骨)が動けば、子亀(上腕骨)はもっと…

さらに肩鎖関節を支点に、脊椎背筋(特に僧帽筋)の力で肩甲骨が振れる(回旋)ことによって、腕は広い可動域を得ます。

 

上腕骨の挙上だけでは、腕は約90度までしかあがりませんが、鎖骨との連動によって土台の肩甲骨が外に回旋(外旋)することによって、上腕骨はバンザイができるようになります。

 

「親亀の上に子亀を乗せて、親亀こけたら…」と同じ理屈です。この理屈は、「片方の手で反対の肩を抑えると上腕骨が90度以上挙がらない」ことで実感できます。つまり、肩甲骨(親亀)が動くことによって上腕骨(子亀)は広い可動域を得て、スポーツを楽しめているワケですね!

 

[図表5]肩鎖関節と可動域

 

しかし、広い可動域を得た代償として肩は不安定性と肩こり等の問題(玉手箱)を抱えるようになったのですが、これについての詳しい話は、また別の機会に。

 

★今日の教訓★

昔々、浦島太郎(背筋)に助けられた親亀(肩甲骨)は、子亀(上腕骨)と一緒に広い海(運動域)を泳ぎ回り、竜宮城であらゆるスポーツを楽しみました。帰ってきた親子亀は、浦島太郎へのお土産として、玉手箱(不安定性、肩こり)を渡しましたとさ!(浦島太郎物語現代版)

 

三上 浩
医療法人 医仁会
高松ひざ関節症専門クリニック 院長

 

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