(※写真はイメージです/PIXTA)

平時はいたって普通の94歳の父親。認知症のスイッチが入ると玄関のチャイムの音に異常なほど反応します。見知らぬ人が家に来ることを嫌がるようになったという。連載「見つめてひらめく介護のかたち『楽しむ介護』実践日誌」の著者の黒川玲子さんが認知症の父を介護する日々を現場報告する特別編をお届けします。

蚊にさされたい、痒くなりたい

わが家のじーじは、アルツハイマー星に住む認知星人。地球人の時はいたって普通の94歳。認知星のスイッチが入ると何故か、蚊にさされたがる。

 

今年の夏は蚊が少なかったような気がする。所説あるが、気温が35度以上になると蚊の吸血意慾が減退するらしい。しかし、少し涼しくなったとたんに、蚊の吸血意慾が復活したのか、植木の水やりをするだけで蚊の攻撃に合うようになった。

 

認知症父は「俺には蚊も寄ってこなくなった……年は取りたくないもんだ」としょんぼり。写真提供=黒川玲子
認知症父は「俺には蚊も寄ってこなくなった……年は取りたくないもんだ」としょんぼり。
写真提供=黒川玲子

 

私が「痒いよ~」と一人言を言いながらかゆみ止めを塗っていると、「なに、蚊がいるのか? 俺はさされないぞ」とじーじ。次の日、また蚊の攻撃を受けかゆみ止めを塗っていると「なに! また蚊にさされたのか。いいな~」と何故か、蚊にさされることを羨ましがっている様子。「痒くなるから嫌だよ」というと、「俺には蚊も寄ってこなくなった……年は取りたくないもんだ」と急にしょんぼりしてしまった。

 

そして、この日を境に、じーじはちょくちょく「蚊にさされたい星人に変身」するようになった。食事中にゲホゲホむせている最中も「俺は……むせるよりも蚊にさされたい」。かゆみ止めCMを見れば「俺だって蚊にさされたい」。挙句の果てには「デイサービスにいるばーさんは寄ってこなくていいから、蚊にきてほしい」とまで言う始末。

 

そして、事件は起きた。耳元で「ぶ~ん」という羽音。痒い! またやられた!

 

涼しくなってきたので、ついに家の中にまで蚊が侵入したかと思って窓に目をやると、なんと家中の網戸が全開ではないか。網戸を閉め忘れたのかと思いつつ慌てて閉めていると「最近の蚊は網戸をあけても家の中までは入ってこないようだな」とじーじ。網戸を全開にした犯人はじーじのようだ。「入ってきてるよ、私はさされた」と言うと「なに!俺はさされないぞ」と言ってまたしょんぼり。

 

しばらくして玄関がバタンと閉まる音がした。慌てて外に出てみると、ステテコ姿で立ちすくむじーじの姿、「どうしたの?」と聞くと「蚊にさされるかどうか実験中」。どこかで聞いたフレーズだなあ。そういえば去年も蚊にさされたいからと庭にいたのを思い出した。その時、一匹の蚊がじーじの腕にとまった!

 

「じーじ! 腕に蚊がいるよ」と言うと「お~~! お~~~!」と嬉しそうに眺めるじーじ。しかし、蚊に刺されたにもかかわらず、ちっとも痒くならないじーじ。今度は「痒くない」としょんぼり。

 

じーじの実験により高齢者は痒みの元となる蚊の唾液に対する抗体ができていて、さされても痒くないということが証明されたのであった。

 

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認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌

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わけのわからない行動や言葉を発する前に必ず、じーっと一点を見据えていることを発見! その姿は、どこか遠い星と交信しているように見えた。その日以来私は、認知症の周辺症状が現れた時のじーじを 「認知症のスイッチが入っ…

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