深刻化する「ネット上の誹謗中傷」…「侮辱罪の厳罰化」で被害者は救済されるのか?【元警視庁刑事が解説】

深刻化する「ネット上の誹謗中傷」…「侮辱罪の厳罰化」で被害者は救済されるのか?【元警視庁刑事が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

深刻化するネットでの誹謗中傷被害を受けて、「侮辱罪」を厳罰化する動きが進んでいます。侮辱罪の厳罰化により、ネット中傷への対処法や被害者の救済は、どのように変わると期待されるのでしょうか? 元警視庁刑事の探偵・坂田修宏氏が解説します。

ネットでの誹謗中傷被害が深刻化

探偵活動において、被害相談に多くいただいている案件が「誹謗中傷」で、その中でも顕著に現れるのは「侮辱罪」です。

 

先日も遅い時間に配偶者の職場のいじめについてご相談をいただきました。

 

内容は辛辣な言葉でのネットへの書き込みで、一度だけでなく頻繁に続いていることから被害届を出すために相手を特定して欲しいとのご依頼です。

 

他にも、

 

●芸能活動をしていて、同業者から「ブス」とネット掲示板に書かれて貶められる

●SNSの投稿で社員に注意したら「X社の社長は愚痴が多くて無能」と書き続けられ、警告しても止めない

 

などのご相談をいただいたことがあります。

 

侮辱的発言を発信している側には、深刻な罪責を考えていないケースが多い反面、受ける側の精神的ダメージは大きく、重大な場合は職場を辞職せざるを得なかったり、精神疾患に陥ったりすることもあります。

「侮辱罪の厳罰化」で被害者は本当に救われるのか?

政府は、2020年5月、ネットで中傷を受けたプロレスラー木村花さん=当時(22)=が自ら命を絶った問題を契機に本年の3月8日に、ネットの誹謗中傷を抑止するために「侮辱罪」の現行制度を「1日以上30日未満の拘留または1000円以上1万円未満の科料」を「1年以下の懲役か禁錮または30万円以下の罰金」とし、公訴時効についても「1年」から「3年」に延ばし厳罰化への審議に入りました。

 

「懲役、禁錮刑」に引き上がることで、幇助罪や教唆罪が適用されることから、誹謗中傷の被害者は、発信者だけではなくサイトやサーバーの管理者、プロバイダを相手取って訴えを起こせる可能性が高まりました。

 

主に、匿名投稿者の特定に用いる「発信者情報開示請求」を法的に適用できるのが「プロバイダ責任制限法」ですが、現行法では使い勝手の悪さが問題となっていました。

 

本来、サイト管理者やインターネット接続業者は、発信者のIPアドレスや個人情報を保有していますが、これまでTwitter、Facebook、Instagram、Googleといった「ログイン型」のサイト管理者は、個人が開示請求してもなかなか応じませんでした。

 

そこで、弁護士に依頼して裁判所に仮処分申し立てする必要があるのですが、相当な費用と時間のコストがかかります。

 

その点を克服するために、2022年10月までに施行される改正プロバイダ責任制限法では、「発信者情報開示命令」の制度が新設されることになりました。

 

加害者が特定しやすくなっても、肝心の「警察が動くかどうか」が問題

手続きの中で「提供命令の申立て」が認められれば、投稿者のIPアドレス等に関する情報提供が簡素化して、裁判所が職権で調査を行うことも認められる「非訟事件」となりました。

 

これは、「決定」という簡略化された形式の処分が行われ、これまで6~10ヵ月程度かかっていた投稿者の特定が、半分程度の期間に短縮されることが期待できるでしょう。

 

ただし、民事処理で終局的な権利義務の確定を目的としないことから、被害者感情を尊重した処分は望むことはできません。どうしても警察署に被害届を提出して、極力、弁護士費用と訴訟費用を抑えて解決したいものです。

 

ところが、警察は具体的な被害状況や明確な証拠を集めておかないと、なかなか被害届を受理してくれません。

警察を動かすには?探偵に相談する場合

警察に相談しても「事件性がない」と言われてしまった場合に、探偵の調査によって警察を動かせるだけの証拠を用意できるケースがあります。

 

探偵は、依頼を受けたうえで、聞込み、尾行、張込みを行うことが探偵業法で認められています。そのため、嫌がらせやストーカー、盗聴器といった予想外のトラブルに遭ったときに、誰が行ったかを張り込みや尾行で突き止めることができるのです。

 

ただし探偵は、違法行為や対象者が不利益を被る可能性がある調査をすることができません。探偵業法の第六条で「違法行為や、人々の平穏な生活や権利を侵害するような行為をしてはならない」と明確に定義されています。

 

では、探偵はどこまで調査できるのでしょうか。探偵事務所で多数のご相談をいただいている誹謗中傷発信者調査を例に、具体的に見てみましょう。

 

たとえば、誹謗中傷の証拠を獲得するために、以下のことができます。

 

●相手を特定するIPアドレスの調査

●誹謗中傷の証拠調査(写真・動画・音声で証拠をおさえることも可能)

 

対して、探偵ができないのは以下のことです。

 

●誹謗中傷者のスマホの中身、LINEやSNSのメッセージの中身を調査

●誹謗中傷者の自宅や会社への侵入

 

探偵は尾行を認められているため、誹謗中傷を行った相手を尾行して共犯者が誰かを突き止めることが可能です。

 

しかしながら、過度に相手方を追及する行為はプライバシー侵害や不正アクセス禁止法に触れる可能性があります。探偵は調査において違法行為を行うことはできません。違法行為を受けず、それができない理由をきちんと伝えてくれる探偵事務所を選びましょう。

 

我々探偵としても、ご依頼者様の心を引き裂くような言動は看過できません。これまで以上に、証拠収集に力を入れて行かなければなりません。

 

 

坂田 修宏

坂田探偵事務所 代表

元警視庁刑事

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