(※写真はイメージです/PIXTA)

経済について知っておくべきことの一つは、「自発的な取引は買い手と売り手の双方にとって利益になる」ということです。アメリカの経済学教師デーヴィッド・A・メイヤー氏の著書『アメリカの高校生が学んでいる経済の教室』(SBクリエイティブ)より、「自由貿易」を中心に、取引の基本を見ていきましょう。

「貿易」とは、国をまたいだ取引

他の国の人と取引をするとき、その取引は「貿易」と呼ばれる。貿易も国内の取引と同じで、双方にとって利益になる。Win‐Winであり、富の創造だ。

 

とはいえ、貿易は多くの人から疑問視もされている。せっかくの貿易の利点も、外国との競争で雇用が失われたというニュースにかき消されてしまうことが多い。仕事を失った人たちの苦しみは本物であり、たしかに注目されなければならない。とはいえ、貿易の利点もまた本物であり、無視するべきではないだろう。

政府の干渉を受けない「自由貿易」はいいものか?

■戦前の貿易は政府が干渉するのが主流

第二次世界大戦の以前、国家間の貿易協定はたいてい2国間の協定だった。この枠組みのもとで、国家はさまざまな優遇措置を設けていった。ある産業を守るために高い関税をかけたり、政府が収入を増やそうとしたり、ある特定の団体の利益を守ったりといったことだ。

 

その結果、優遇措置から漏れた人たちは不当な扱いを受けることになる。最終的には自由貿易の利点が失われ、国家は孤立主義と保護主義(孤立主義とは、他国と同盟関係を結ばず、国際組織にも加盟しない外交姿勢。保護主義とは、自国の産業や会社を守るために、輸入を制限したり、輸入品に高い関税をかけたりすること)に流れていった。

 

第二次世界大戦が終わりに近づくころ、工業化した自由主義国家のほとんどが、アメリカはニューハンプシャー州のブレトン・ウッズに集結した。しばしば国家間の争いの火種になってきた経済の諸問題について話し合うためだ。この会議は、国際通貨基金(IMF)と世界銀行を誕生させるという一応の成果は出したものの、国際協調を促し、さらにアメリカを満足させることのできる貿易の枠組みを生み出すまでには至らなかった。

 

貿易が活発になると、貿易に参加している国の生活水準が向上する

1947年、アメリカを含む多くの国が集まり、「関税と貿易に関する一般協定」、通称「GATT(ガット)」が結ばれた。GATTの目標は、関税とその他の貿易障壁を削減し、加盟国が平等に自由貿易の利点を享受できるようになることだ。

 

GATT加盟国による交渉は「ラウンド」と呼ばれ、ときには何年も続くこともある。

 

このラウンドを積み重ねることによって、加盟各国の関税はかなり引き下げられ、20世紀後半に世界の貿易が大きく広がることになった。

 

自由貿易を促進するための組織はいくつかある。有名な例は、欧州連合(EU)と北米自由貿易協定(NAFTA:ナフタ ※1)だ。どちらも効果的に加盟国間の貿易を増加させてきた。

 

貿易が活発になると、貿易に参加している国の生活水準が向上する。1995年、GATTのウルグアイ・ラウンドが成功裏に終了し、その結果GATTは世界貿易機関(WTO)として生まれ変わった。GATTと、後のWTO体制のもと、より多くの国が関税の引き下げと貿易障壁の削減を支持するようになった。

 

その結果、貿易の拡大が続き、多くの国が貿易の利益を享受している。たとえば、ヨーロッパでもっとも貧しい国の1つだったアイルランドは、EUに加盟し、貿易に門戸を開くようになってから、ヨーロッパでもっとも豊かな国の1つになった。

 

※1 トランプ政権でNAFTAの見直しが行われ、2020年に「米国・メキシコ・カナダ協定〔USMCA〕」が新たに発足した。

次ページなぜ今でも「貿易をやりにくくする措置」を行うのか

※本連載は、デーヴィッド・A・メイヤー氏の著書『アメリカの高校生が学んでいる経済の教室』(SBクリエイティブ)より一部を抜粋・再編集したものです。

アメリカの高校生が学んでいる経済の教室

アメリカの高校生が学んでいる経済の教室

デーヴィッド・A・メイヤー 著
桜田直美 訳

SBクリエイティブ

金融教育の先進国・アメリカでは、高校生のからお金の流れと世の中の仕組みについて学校で勉強する。 アメリカの高校生が学んでいる、「日本の学校では教えてくれない」一生ものの経済のきほんの授業を一冊に凝縮!

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