入学早々「落ちこぼれる」可能性も…新・学習指導要領「驚愕の厳しさ」【塾講師が解説】

入学早々「落ちこぼれる」可能性も…新・学習指導要領「驚愕の厳しさ」【塾講師が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

「学習指導要領」とは、小学校、中学校、高校の学校種別ごとに教科の目標や大まかな学習内容を示したものです。時代の変化に合わせて約10年ごとに改訂されてきましたが、2021年度に導入された中学校の新・学習指導要領はかつてないほどの大改訂で、急に成績が下がった生徒も続出する事態に…。高校の学習指導要領の改訂が迫る今、中学校で起こった変化から、学校教育の最新事情を見ていきましょう。

各学年の目標は「大学入試時点の目標」から逆算し設定

学習指導要領で変わったのは、育成を目指す学力観だけではありません。教育課程が改善され、学校の授業時数も、小・中学校の国語・社会・算数(数学)・理科・体育(保健体育)で約10%増えています。小学校の高学年から中学生では、すでに4月から平均して週1コマ授業が増えています。

 

当然、教育内容も変わっています。学習指導要領で示された新しい学力を大学入試にも反映させようというのが、2024~2026年で本格実施が検討されている大学入試改革(高大接続改革)です。大学入試時点でここまで到達していてほしいという目標から、そこに至る中高の時点での学習達成目標も明確に示されています。

 

例えば英語では、中学校卒業段階で英検3級程度以上、高校卒業段階で英検準2級程度以上に相当する学力をもつ生徒を全体の50%以上にする、というのが2022年度までの達成目標です(第3期教育振興基本計画)。

 

この大学入試時点からの逆算によって小学校、中学校、高校で学ぶ英語の授業や内容は、次のように変化しています。

 

<小学校の英語学習>

●3年・4年で外国語活動開始(年間35時間)

●5年・6年で外国語が教科化(年間70時間)

●小学校で扱う英単語は600~700語程度 ※先行実施を行っていた地域もある。

 

<中学校・高校の英語学習>

●中学校で扱う英単語数は1600~1800語程度に増加

●高校で学習していた文法の一部を、中学校で学習する

●中学校でも英語で授業を行うことが基本になる

●高校で扱う英単語は1800~2500語程度に増加

 

<大学入試の英語>

●英語4技能(読む、書く、聞く、話す)をバランスよく評価する

●共通テストでは英語成績提供システム、記述式問題の導入が見送り

●大学、学部により英語資格・検定試験を活用

入学早々「落ちこぼれる」可能性も…改訂後の学習内容

学習内容の変化は、当然、学校で使う教科書にも反映されます。

 

2021年4月から、中学校の教科書も新・学習指導要領に則したものに改訂されました。4月に教科書を見て、「えっ、これを中学校で習うの?」と驚いた人もいるかもしれませんが、量的にも質的にも、かつてないほど大幅な改訂となっています。

 

中学校の教科書全体で変わったポイントを変化が分かりやすい英語を例に説明します。

 

①学習量が増加した

最も学習量の増加が大きいのが英語で扱う単語数です。2020年までは中学3年間で習う英語は1200語程度でした。しかし2021年からは、小学校で600~700語、中学校で1600~1800語となり、中学3年までに接する単語は最大2500語になります。これは従来の2倍に相当する量です。

 

ここで扱う単語にはローマ字表記の人名(夏目漱石など)も含まれますから、すべてを完全に記憶する必要があるわけではありません。ですが、小学校で扱う基本的な単語がうろ覚えだと、中学で覚えなければならない単語がどんどん雪だるま式に膨れ上がっていきますから、注意が必要です。

 

②学習内容が難しくなった

2020年までは高校で習っていた文法の一部が、2021年からは中学校で習うようになりました。具体的には仮定法、現在完了進行形、原形不定詞、感嘆文などです。仮定法は「もし~ならば」というifを使った構文です。現在完了進行形はI have been Vingなど、「~からずっと~している」という現在までの動作や状態の継続を表します。これらは日本語で文の構造がつかめていないと、英語での理解も難しくなります。

 

また、中学1年の英語教科書のなかには、1章で「I am(be動詞)」、2章で「I like(一般動詞)」、3章で「I can(助動詞)」と、ハイスピードで文法学習が進むものもあります。

 

以前は、I amやYou areのあとの章では、I am not ~, You are not ~(否定形)と、丁寧に文法を学んでいたのとは対照的です。これも中学1年は、小学校である程度の基礎ができているという前提で文法学習が進むためで、ヘタをすると中学に入学してすぐ、もう授業についていけない、となる可能性もあります。

 

③思考力・判断力・表現力等を重視

2021年からは英語ですべての授業を行う「オールイングリッシュ」が基本となり、英語4技能「読む・書く・聞く・話す」が同等に評価されます。単に英語が読める・書けるだけでなく、「英語で何ができるか、何を表現できるか」が問われます。英語の質問に英語で答える、英語で自分の考えを表現するといったことも行われます。ただし、「オールイングリッシュ」は現在、絵に描いた餅になっています。

 

また教科等横断的な内容を英語で学ぶ時間も増えます(CLIL:Content and Language Integrated Learning:内容言語統合型学習)。「世界がもし100人の村だったら」という視点で世界の教育、食料、飲料水などについて英語で学び、意見を述べるような学習も登場してきています。

 

④SDGsが盛り込まれた(主要5教科)

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、近年よく耳にするようになった言葉の一つです。エネルギーや環境、貧困、飢餓、格差といった国際社会が抱えるさまざまな課題を知り、一人ひとりが主体的に課題解決に取り組む態度を養成するために、英語をはじめ国語・数学・理科・社会の主要5教科すべての教科書で、SDGsが取り上げられています。

 

【図表】大学入試改革と学習指導要領改訂
次ページ英語以外も大改訂…「教科別」のポイント

※本連載は、大坪智幸氏の著書『デタラメ受験戦争 失われた「学びの本質」』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

デタラメ受験戦争 失われた「学びの本質」

デタラメ受験戦争 失われた「学びの本質」

大坪 智幸

幻冬舎メディアコンサルティング

知育と徳育の両面から指導すれば、子ども一人ひとりの生きる力を引き出せる。 「塾屋」が提言する学びの本質とは? 学習塾を経営し自ら教壇に立って指導をする著者は、現在の受験本位の教育は本当の意味で子どものために…

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