「理想のフライパン」を作ればいいと考えた。

「錆びない」「変形しない」「焦げつかない」「受け継げる」という4つの要素を兼ね備えたフライパンはありそうでない。ないなら自分で「理想のフライパン」を作ればいい。飯田屋6代目店主の挑戦を著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)で明らかにします。

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ありそうでなかった「理想のフライパン」

■立ちはだかる「業界常識」という壁

 

次世代に受け継げるような耐久性のあるフライパンをつくりたいと思ったのは、お客様の声がきっかけでした。親が使っていた包丁を刃が削れて小さくなるまで使っているという話を耳にしたことはありますが、ほかの料理道具で世代を超えて受け継ぎ使い続けていると聞く道具はあまりありませんでした。鍋を受け継いだという人の話をまれに耳にしましたが、フライパンでは一度もありません。

 

僕は母から受け継いだ鉄製のフライパンを大切に使っていますが、長年使っているうちに熱変形して底面が湾曲してしまいました。鉄は意外と軟らかく、何度も叩いて焼き締めて硬くします。この作業が不完全だと、熱むらが生じて変形しやすくなってしまうのです。それでも鉄製のフライパンは耐久性に優れており、飯田屋で扱うたくさんの種類の中でも、受け継げるものとしてご紹介しています。

 

しかし、鉄製のフライパンの弱点は、重くて錆びやすく、油をしっかり馴染ませないと焦げつきやすく、手入れが面倒な点です。そのため、いいものだとはわかっていながらも、いざ購入するとなると手が伸びなくなってしまう方も少なくありません。

 

また、長年使い続けるためには「一体成型」といって、柄と本体が一体となった形状も大切な要素です。フライパンを買い替えるタイミングのほとんどが、柄がガタついてしまったときか、使いすぎて穴が開いてしまったときなのです。

 

「錆びない」「変形しない」「焦げつかない」「受け継げる」という4つの要素を兼ね備えたフライパンが、ありそうで見つからないのです。

 

それならば「理想のフライパンをつくればいい!」と考えました。

 

素材は「錆びない」ステンレスで、厚みは「変形しない」ためにも、3㎜は欲しいところです。そして、壊れにくい一体成型で「受け継げる」ものにしようと考えました。

 

さっそく協力してくれるメーカーを探そうと何社かに問い合わせてみましたが、断られるばかりで、普段からお付き合いのあるフライパンメーカーからもいい返事はもらえません。そもそもフライパンには、「受け継ぐ」という概念があまりないようでした。むしろ、壊れない道具をつくることは業界のタブーだったのです。

 

たとえば、一般家庭で主流となっているフライパンは表面コーティングをしたもので、耐久年数はどんなに高価なものでも1~3年ほど。一定期間で買い換えてもらうのが業界常識です。

 

業界でいいとされるフライパンの基準は「軽い」「熱伝導が速い(厚みが薄い)」「扱いやすい」、そして「安い」ものです。なぜなら、これらが揃っていると「誰にでも売りやすく、一定期間で買い替えてもらいやすい」からです。

 

さらに調べていくと、肉をはじめとする食材をおいしく焼けるのは熱伝導が速いものではなく、ゆっくりのものだとわかりました。世間で熱伝導が遅いと評価されている金属ほど、焼き料理も炒める料理も旨味を引き出しておいしく料理できるのです。

 

熱伝導が遅い金属といえば鉄やステンレス。ところが、業務でもご家庭でも一般的に使われているフライパンの多くはアルミ製。僕がつくろうとしているのは、業界の常識とは真逆のものでした。

 

「そんなものをつくったら、買い替え需要がなくなる」「それで、何万枚発注してくれるの?」と、どこのメーカーからも冷笑されました。

 

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※本連載は飯田結太氏の著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)を抜粋し、再編集したものです。

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

飯田 結太

プレジデント社

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