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米国の金融市場:昨年春とは大きく異なる動き
南アフリカでオミクロン型が発見され、株式や原油市場ではショックが広がった。もっとも、米国の金融市場全般を見渡すと、例えばクレジットマーケットでは、LIBOR-OISスプレッドが低水準での推移を続けている(図表1)。
また、株式市場は調整局面を迎えているが、VIXが史上最高値を記録した昨年3月と比べ、パニックに陥っているわけではない。
新型コロナの感染が急拡大した昨春は、ワクチンや治療薬がなく、初めて実施されたロックダウンがどの程度の経済的影響をもたらすのかも手探りだった。しかし、1年半の経験を経て、ダメージが飲食、運輸、観光など一部の産業に集中することが分かってきた。一方、消費を含め経済活動は維持され、昨年7-9月期以降、ロックダウン期もあったが米国の成長率は4四半期連続でプラスを維持している。
株式、原油などロングポジションが積み上がっていた資産では、手仕舞いの動きが価格を押し下げた。しかし、金融市場全般が落ち着いているのは、学習効果が大きいだろう。オミクロン型の感染により、経済活動再開が数ヵ月遅れるとしても、その間にワクチンや治療薬の対応が進むと期待できる。そうした安心感は、昨年春との大きな違いではないか。
労働需給:構造的なインフレ要因の可能性
11月30日、連邦上院銀行委員会での証言に臨んだジェローム・パウエルFRB議長は、従来のFRBの見解を実質的に修正、インフレ圧力が持続する可能性に言及した。特に同議長が強調したのは労働需給のひっ迫による賃上げだ。
産業別求人が4ヵ月連続で1千万人を超えた背景は、第1にミスマッチではないか。新型コロナ禍で一時解雇された労働者の多くは既に復職したと見られる。一方、非農業雇用者数は新型コロナ禍直前の2019年12月を依然360万人下回った状態だ。ただ、求人の多さを見る限り、求人と求職者の職能の不一致が労働市場をひっ迫させているのだろう。
第2には生産人口の高齢化だ。1996年、生産人口に占める55~64歳の比率は12.5%だった(図表2)。
それが、2020年には19.9%になっている。新型コロナは高齢者の重症化が際立っており、解雇されたり自ら離職した年齢の高い層が、経済活動再開の下でかならずしも再就職を目指していない可能性は否定できない。
これは構造的な労働力不足の要因だ。雇用のミスマッチに加え、高齢化による労働力人口の伸び悩みは、雇用需給のひっ迫が続く可能性を示唆している。オートメーション技術の活用による効率化が図られるとしても、パウエル議長の議会証言通り、賃金の伸びが高止まりして、インフレ圧力となるシナリオには十分な蓋然性があるだろう。
オミクロン型が目先の景気にどの程度の影響を与えるのか、まだ不透明と言わざるを得ない。ただし、雇用情勢を見る限り、米国のインフレ圧力は一過性ではない可能性が強いと考えられる。中長期的にはそれへの対処がより重要だろう。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『オミクロン型への対処方針』を参照)。
(2021年12月3日)
市川 眞一
ピクテ投信投資顧問株式会社 シニアフェロー
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