(※写真はイメージです/PIXTA)

日本の牛乳は美味しい。とにかく美味しい。なぜそんなに美味しいのか? 時は明治9年、「少年よ、大志を抱け」で有名なクラーク博士が北海道は札幌農学校に招かれた頃に遡る。※本連載は渡瀬裕哉氏の著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)から一部を抜粋し、再編集したものです。

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    日本の農業に共通する統制の強い産業

    ところが、現在の日本の酪農は、政府による統制が非常に強いことが産業をかえって弱らせています。酪農に限らず、日本の農業に共通するのは統制の側面が強い産業だということです。基本となっているのは、需給調整です。

     

    需給調整は市場で流通する量を政府が統制する仕組みです。市場で余らない程度がどれくらいかを予測し、生産から流通まで管理され決められた価格で販売されるので、経営コストに見合わない部分については補助金を出し、輸入は規制されます。

     

    こうした国民の食卓に日常的に上るような食品の需給調整は、政府主導によって行われています。なおかつ、地域ごとに生産・流通などで縄張りのようなものができ、地域内では競争もなるべく起こらないようにして、全体的に統制しましょうということになるのです。

     

    こうした統制の影響で、身近なものでは、バターが売り切れる現象があります。本来であれば、ニーズのある商品はどんどん生産されます。だから欲しい人はお店の棚から商品を買って手に入れることができるのです。最初から供給量を計画して、それに見合った生産をさせる方式では、ニーズが増えたときには棚から商品が消えます。

     

    欲しい人がたくさんいるのだから、普通は国内の生産で足りない分は輸入品などが埋めます。ところが、それも規制しているので入ってこないのです。平成28年(2016)に起きたバター不足では、当時のGATT(関税及び貿易に関する一般協定)で輸入義務となっている年間7000トンに加え、6000トンの追加輸入を政府が決めたことが話題となりました。

     

    酪農の仕組みに関する研究には、高崎経済大学の佐藤綾野教授によるものがあります。2013年の論文で、佐藤教授は戦後の酪農家再編や運搬技術の問題から流通、価格、品質の管理まで、その仕組みの課題を鋭く指摘しています。

     

    現在の制度では、簡単に言えばもっと生産効率を上げ、供給量を増やす努力をするような生産者はあまり望まれていません。なおかつ生産量が足りなくても、国内産業保護の名目で輸入を解禁することもないので、結局は生産性を下げているだけになっています。

     

    製品がスーパーなど小売店で売られているため、一見すると市場経済だと勘違いされがちですが、これでは配給制と変わりません。実際には、スーパーで商品棚に並ぶまでの過程で、価格が固定されているからです。

     

    自由な市場には、需要があって製品が少なければ価格が上がり、上がった価格での利益を求めて生産が増え、供給が増えれば価格が下がるので損をしないために増産が落ち着き、最終的に適度な価格で需給が均衡するという機能があります。乳製品は、この市場機能の外側にあり、単にスーパーが値付けを多少調整したり、買う側が欲しいか欲しくないかを判断したりする余地が残っているだけです。

     

    生鮮品の仕入れや小売は、なかなか難しいものです。賞味期限が短いため、値引きが発生しやすいのです。農水省は小売業者に対して、仕入れ時の過度な値引き要求をしないように求めています。一方、この制度は小売や卸業者と生産者の協力による、価格の工夫などで新鮮な製品をたくさん売るというインセンティブも働きづらい仕組みです。

     

    これでは、最終的には消費者にとっても不利益です。より良い製品を必要なタイミングで手に入れることができないからです。商品がお店の棚からなくなったら、再び棚に並ぶまで何日も待たなければなりません。

     

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    無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

    無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

    渡瀬 裕哉

    ワニブックス

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