(※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「宅森昭吉のエコノミックレポート」の『経済指標解説』を転載したものです。

 

大企業・製造業・業況判断DI+18と4ポイントの改善、予想外の5期連続改善に

 

大企業・非製造業・業況判断DI+2、前回「先行き」から1ポイント悪化だが5期連続改善

 

ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベース全規模・全産業・設備投資+9.3%増

 

 

●9月調査日銀短観では、大企業・製造業・業況判断DIが+18と6月調査の+14から4ポイント改善した。改善は5期連続で、18年12月調査の+19以来の水準である。9月のQUICK短観やロイター短観では足踏み状況だったが、それらに反し、日銀短観では改善が継続した。9月調査は調査期間の前半と後半、回答時期により、景況感が変わりやすかったとみられる。QUICK短観やロイター短観の回答時期は早かった。半導体など部品調達難、8月下旬の2万人台の新型コロナウイルス新規感染者数、緊急事態宣言の延長等の悪影響を懸念する見方と、9月に入ってからの新規感染者数の減少、全人口の50%超となったワクチン接種完了者数、自民党総裁の交代と新総裁の経済対策への期待、先行きの行動制限緩和案の検討、日経平均株価3万円台などの明るい兆しを意識する見方が交錯し、日銀短観では明るい材料に注目する回答がやや多かったとみられる。

 

●大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は17年12月調査で4%まで低下したが、そこを底に19年12月調査では12%、20年3月調査では19%と増加し、6月調査で41%まで大きく増加した。しかし一転改善に転じ、9月調査34%、12月調査22%、21年3月調査14%、6月調査で9%まで4期連続で低下していた。今回21年9月調査でも9%と横這いになった。

 

●なお、今回9月調査で「悪い」と答えた割合は「最近」の9%に対し、「先行き」では7%と2ポイント減少の見込みであり、やや改善する見込みだ。但し、「良い」と答えた割合は「最近」では18%に対し、「先行き」では14%でこちらは4ポイント減少の見通しとなっている。

 

 

●9月調査の大企業・製造業の業況判断DI+18は6月調査の「先行き」見通し+13を5ポイント上回り、足元の景況感が先行き予想を上回ったことになる。

 

●大企業・製造業の「先行き」業況判断DIは+14と「最近」の+18から4ポイントの悪化が見込まれている。半導体などの部品調達難が続く可能性や、新型コロナウイルスの感染第6波の状況に対する不透明さなどがマイナス材料になっていると思われる。

 

●9月調査の21年度下期の想定為替レートは107円64銭で、足元の実際の為替レート(10月1日東京市場午前9時台は1ドル=111円台)よりかなり円高水準である。

 

●大企業・非製造業・業況判断DIでは、前回6月調査で+1のプラスだったが、今回9月調査では1ポイント改善し、+2になった。但し、前回6月調査の「先行き」見通し+3を1ポイント下回り、足元の景況感が先行き予想を下回り、思ったよりはやや悪かったということになる。

 

●大企業・非製造業で「悪い」と答えた割合は17年9月調査19年12月調査まで4%または5%で安定的に推移していたが、20年に入り悪化、20年3月調査で一気に8ポイント悪化し13%に、6月調査では19ポイントも悪化し32%になった。しかし、9月調査27%、12月調査21%、21年3月調査20%、6月調査で17%まで低下していた。今回9月調査でも17%と同水準で、悪化はしなかった。

 

●大企業・非製造業・業況判断DIの「先行き」は+3と「最近」の+2から1ポイントと僅かな改善が見込まれている。「悪い」と答えた割合は「先行き」は12%で「最近」の17%から5ポイント減少している。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では19%、「先行き」では15%で4ポイントの減少だ。「良い」の減少には、冬場を迎えての新型コロナウイルスの感染再拡大に対する不安感などが垣間見られる。

 

●中小企業・製造業の業況判断DIは今回9月調査で▲3と6月調査の▲7から4ポイントマイナス幅が縮小した。6月調査の「先行き」見通しでは▲6とみていたので、足元の景況感は3ポイント予測よりも良かったという結果になった。

 

 

●一方、中小企業・非製造業の業況判断DIは、20年3月調査で▲1と14年12月調査の旧企業ベースの▲1以来のマイナスがついてしまった。20年6月調査ではさらに悪化し▲26になったが、9月調査▲22、12月調査▲12、21年3月調査▲11、6月調査で▲9と4期連続改善した。今回9月調査で、▲10。6月調査時点の「先行き」▲12を2ポイント上回る水準で、予測より良かったということになった。

 

●中小企業・製造業の「先行き」の業況判断は▲4と「最近」▲3から1ポイント悪化する見通しである。また、中小企業・非製造業は「先行き」を慎重にみる傾向があり、▲13とこちらは「最近」▲10より3ポイント悪化する見通しである。

 

●全規模・全産業の業況判断DIは、過去最悪の98年9月調査の▲48に近かった09年3月調査の▲46を底に上昇し、東日本大震災による一時的落ち込みなどを挟んで13年9月調査で+2と07年12月以来のプラスになり、以降プラスが続いていたが、20年3月調査で▲4と19年12月調査の+4からマイナスに転じ、6月調査では▲31と2ケタのマイナスになった。しかし、9月調査▲28、12月調査▲15、21年3月調査▲8、6月調査で▲3、今回9月調査では、▲2と5期連続で改善した。「先行き」は▲5と3ポイント悪化の見通しだ。持ち直し基調にはあるが、ワクチン接種は全人口の6割近くになっているもののブレイクスルー感染の可能性も言われていてまだ終息が見通せない新型コロナウイルスの動向などが、先行きの景況感に影を落としている。

 

●今回9月調査の雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)では大企業・中堅企業・中小企業と全産業・製造業・非製造業のすべての組み合わせで6月調査からの限界的な変化としては不足感が増した。先行き見通しでも変化幅がすべての組み合わせでマイナスと、不足感が拡大している。雇用に関しては、企業の判断では、雇用の過剰感が増しているというような状況ではないことがわかる明るい数字になった。

 

●9月調査の21年度の大企業・全産業の設備投資計画・前年度比は+10.1%、中小企業・全産業の設備投資計画・前年度比は+4.7%の増加である。全規模合計・全産業の設備投資計画・前年度比は+7.9%のしっかりした増加率になっている。6月調査の+7.1%から0.8ポイント増加した。

 

●また、GDPの設備投資の概念に近い「ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベースの全規模合計・全産業の設備投資は、9月調査では21年度の前年度比は、6月調査と同じ+9.3%と増加見通しになっている。

 

●「企業の物価見通し」では、全規模合計・全産業でみて、販売価格の見通しでは、1年後が+0.7%と前回6月調査の+0.5%から0.2ポイント上昇した。3年後が+1.3%と前回から0.2ポイント上昇、5年後が+1.9%と前回より0.2ポイント上昇した。また、物価全般の見通しでは、1年後が+0.7%と前回より0.1ポイント上昇、3年後が+1.0%と前回より0.1ポイント上昇、5年後が+1.1%とこちらは前回から不変となった。今回の短観の企業の物価見通しは上昇率見通しが概ね全般的に高まるという内容になった。

 

●日銀短観9月調査では、製造業・非製造業と大企業・中堅企業・中小企業の6つの組み合わせで「最近」の業況判断が6月調査から悪化したのは、緊急事態宣言の影響などが大きかったとみられる非製造業・中堅企業、非製造業・中小企業の2つで、残りの4つの組み合わせでは改善した。但し、9月調査の「先行き」の業況判断が「最近」から改善したのは非製造業・大企業だけで、残り5つの組み合わせは悪化の見通しである。先行きの不透明感から慎重な見方が継続していることを示唆する内容だった。内訳をみると、6つすべての組み合わせで「最近」で「良い」としたが、「先行き」は不透明だとみて「さほど良くない」に移った回答が多くなり、製造業・大企業など5つの組み合わせで、「先行き」の業況判断が「最近」より悪化した。しかし、6つの組み合わせ全てで「悪い」の割合は低下している。先行きの景況感はそれほど悪くはないと言えよう。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2021年9月調査 日銀短観』を参照)。

 

(2021年10月1日)

 

宅森 昭吉

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

理事・チーフエコノミスト

 

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