医師の働き方改革は医療制度にどんな影響を与えるか…診療体制の変更などが起きる?問われる都道府県の対応

医師の働き方改革は医療制度にどんな影響を与えるか…診療体制の変更などが起きる?問われる都道府県の対応
(写真はイメージです/PIXTA)

国会で、医師の長時間勤務を制限する医師の「働き方改革」などを内容とする改正医療法が成立した。この法改正では、医師の超過勤務を制限する方針に加えて、新興感染症への対応を医療計画に位置付ける制度改正など広範な内容が盛り込まれているため、医療機関の経営や地方行政の実務に様々な影響を及ぼす可能性がある。本記事では、医師の働き方改革を中心に、医療制度に及ぼす影響や論点について考察する。

3―医師の働き方改革に関する経緯と内容

まず、医師の働き方改革に関して簡単に経緯を振り返る。政府は2019年度、働き方改革関連法に基づき、多くの職種について残業の上限規制を導入したものの、医師については、医師法が診療を原則として拒めない「応召義務」を定めていることなどの理由で、適用を5年間猶予してきた。

 

一方、厚生労働省は「医師の働き方改革に関する検討会」を2017年8月から2019年3月までの間に開催し、日本医師会や有識者などとともに議論を積み重ねた。さらに制度設計の詳細を詰めるため、2019年7月からは「医師の働き方改革の推進に関する検討会」で議論を継続しており、2020年12月には「中間とりまとめ」が公表された。

 

このほか、副大臣をトップとする「医師等医療機関職員の働き方改革推進本部」を2019年11月に設置して省内の情報共有に努めてきた。つまり、過去3~4年に渡って議論が続いた結果、今回の法改正に至ったと言える。

 

そのイメージは図表2の通りであり、2024年4月の本格施行が予定されている。ポイントとしては、医療機関が「A水準」「B水準」「C水準」の3つに大別された点である。

 

このうち、A水準は原則として年960時間以下に抑えることが求められる。さらに、B水準は「地域確保暫定特例水準」と呼ばれ、地域医療提供体制を確保する観点に立ち、止むを得ずに960時間を超える医療機関であり、こちらは2035年度末まで年1,860時間まで上限が緩和される。

 

さらに、B水準では「連携B水準」という分類も作られており、主な勤務先の時間外労働時間が年960時間に収まるものの、副業・兼業先の労働時間を通算すると年960時間を超えてしまう医師が所属する医療機関が対象となる。

 

こちらも同じように2035年度末までの措置であり、最終的には勤務時間の抑制が求められる。このほか、多くの症例を集中的に経験する必要がある研修医などについては、「集中的技能向上水準」(C水準)として年1,860時間までの時間外労働時間が認められることになった。

 

具体的には、臨床研修医・専攻医が研修プログラムに沿って基礎的な技能や能力を習得する際に適用する「C-1水準」、医師登録後の臨床従事6年目以降の医師の高度技能育成に必要な場合に適用する「C-2水準」に分かれている。

 

[図表2]医師の働き方改革のイメージ
[図表2]医師の働き方改革のイメージ

 

つまり、A水準の年960時間を理想形としつつも、地域の医療確保に向けて超過勤務が必要と判断されるB水準の医療機関と、研修医の技能向上などの観点で超過勤務が必要と考えられるC水準の医療機関については、約2倍に相当する年1,860時間の超過勤務が認められたことになる。

 

さらに、B水準とC水準の医療機関については、健康確保や労働時間の短縮に向けた取り組みが課されたわけだ。では、こうした改革は今後、どんな影響を医療、地方行政の現場に及ぼすだろうか、以下では医療機関の経営に与える影響、都道府県の実務に与える影響の順で、今後の論点と方向性を示す。

 

次ページ4―医師の働き方改革に関する論点と展望(1)~医療機関の経営に与える影響~

※本記事は、ニッセイ基礎研究所の三原岳氏の「医師の働き方改革は医療制度にどんな影響を与えるか…診療体制の変更などが起きる?問われる都道府県の対応』を転載したものです。
※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

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