(※写真はイメージです/PIXTA)

精神科での薬物治療は、医師にだけ可能な行為です。問診の上での処方が重要ですが、単に「薬を処方するだけ」となりがちであるのが精神医療の現実です。「精神科医の対人援助スキルが乏しい」と医療法人瑞枝会クリニック院長・小椋哲氏は語ります。なぜ精神医療の現場には、こうした問題が起きているのでしょうか。

“ボランティア診療”をしても満足度は低下する悪循環

本来は初診だけでなく、再診でも医師は日常生活の過ごし方や患者の心身の変化について丁寧にヒアリングし、そのときに応じたアドバイスを提供していく必要があります。このため、患者に寄り添った診察を行う志ある医師は、保険点数は変わらないと分かっていたとしても30分近い診察を行っているケースも見られます。

 

診察に時間をかけることで、患者に必要な援助を提供できるのであれば、医師としてのやりがいは感じられるはずです。しかし、医師側のスキルが不十分であれば、かけた時間だけ対人援助の質が向上する保証はありません。

 

例えば、必要な情報を聞きだすのに時間がかかってしまい、具体的な対策は次回に繰り越し、などとなれば、患者は不満を抱いたまま退室することになります。結果としてほかの患者を必要以上に長く待たせてしまったり、医師や病院スタッフの休憩時間がつぶれてしまったり、残業を強いられることになるなど、デメリットのほうが目立つようになってしまいます。

 

患者にとっても、担当医が丁寧に話を聞いてくれるのはありがたいと感じる反面、待合室で長時間待たされるのは、心身に問題を抱えて精神科を訪れる患者には耐えがたい苦痛です。

 

しかも、待たされる時間が長ければ長いほど、自分の診察は短く感じてしまうものです。このため、「ほかの人には丁寧に話を聞いているのに、私の診察はすぐに終わらせようとする」といったクレームにつながりやすくなります。

 

さらに、医師がその医学的な裁量によって、自分が必要だと感じるだけ時間を取ろうとすると、患者の状態によって診察時間に大きな差が生じてしまい、それが患者側の不信感や不公平感を助長してしまうのです。

 

要するに、志ある医師が患者の問題を解決するためにボランティア覚悟で丁寧な診察を行っていても、外来患者全体としての満足度が上がらない状況が多くならざるを得ないのです。ひいては、病院スタッフも残業とクレーム対応で不満が募り、その残業代で経営収支も悪化し、医師は疲弊するという負のサイクルが回り始めてしまいます。つまり、“ボランティア診療”では、現在の精神医療の問題は解決できないのです。

 

 

小椋 哲

医療法人瑞枝会クリニック 院長

※本連載は、小椋哲氏の著書『医師を疲弊させない!精神医療革命』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

医師を疲弊させない!精神医療革命

医師を疲弊させない!精神医療革命

小椋 哲

幻冬舎メディアコンサルティング

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