(※写真はイメージです/PIXTA)

Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

アートをうまく使いこなせるかは人間的な成熟

■役立ちつつ、毒になる

 

現代アートを早足に振り返り、重要なアーティストや特徴的なアートについて触れてきました。皆さんが普段過ごしているビジネスの現場とは、ずいぶんと異なった世界だったと思います。

 

既成の価値観に反発し、センセーショナルな話題を振りまく現代アーティストたちはたくさんいます。アンディ・ウォーホルらのポップアートも、絶頂期を迎えていた戦後アメリカの豊かな大量消費社会を反映したものでした。

 

アーティストは、常にそのときどきの政治や社会の批判を行ってきました。1937年にはピカソが、スペイン内戦さなかにドイツ空軍が無差別爆撃を行ったことに抗議して《ゲルニカ》を描きました。そして、1969年には、当時ニューヨーク近代美術館にあった、その《ゲルニカ》の前で、アーティストたちが、ベトナム戦争への反戦運動を行いました。

 

近年でも中国の現代美術家、艾未未が天安門広場に中指を立てた写真をツイッターに投稿したり、スイス出身のインスタレーション作家、トーマス・ヒルシュホーンがグローバル資本主義を痛烈に批判する作品をつくり続けたりしています。

 

こうして時代を俯瞰的に眺めれば、現代アートが常に社会とリンクしながら歴史を刻んできていることに気づくはずです。

 

富の集中、貧富の差の拡大、後進国の貧困、非正規雇用の増加といった大きな社会問題から、SNSの承認欲求や人間の希薄なつながり、ファストフード依存といった身近な問題に至るまで、アートは、ときにシリアスに、ときにコミカルに時代を映し続け、警鐘を鳴らし続けています。

 

アートはまるで社会のトリックスターのように振る舞い、社会の内と外を行ったり来たりして、一定の距離をとりながら今の社会を相対化する役割を演じてきました。アートは人間に道徳を語り、ときに悪を語るのです。役立ちつつ、毒になるというのがアートです。うまく使いこなせるかどうかは、我々の社会の成熟度にかかっています。そこでは人間的な成熟が鍵なのです。

 

アートは、直接、ビジネスのヒントになるかどうかはわかりません。はなはだ心もとないというところではあるのですが、今の社会を考えるにあたって、これまでの視点では得られなかった考え方やものの見方を得るきっかけになるのではないかと思います。ビジネスもアートも人の暮らしの上にある以上、どこかで共有すべき点があるでしょう。

 

秋元 雄史
東京藝術大学大学美術館長・教授

 

 

アート思考

アート思考

秋元 雄史

プレジデント社

世界の美術界においては、現代アートこそがメインストリームとなっている。グローバルに活躍するビジネスエリートに欠かせない教養と考えられている。 現代アートが提起する問題や描く世界観が、ビジネスエリートに求められ…

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