本連載は、後継者として運送会社の引き継ぎに成功した菅内章夫氏の著書、『できる運送会社の事業承継バイブル』(エベイユ)の中から一部を抜粋し、運送会社特有の事業承継のポイントを解説します。

事業を受け継ぐシステムが出来上がっていない業界

1990年に物流二法が改正されました。この改正以降、運送業界では規制緩和が進み、同業者の乱立による運賃価格の過度な競争が起こり、どんどん運賃が安くなっています。それに伴い、業界の勢いがなくなってきているのを、筆者は肌で感じています。

 

父がこの久居運送を創業したということもあり、筆者は生まれてからずっと、この業界にお世話になってきました。ですから、この業界にとても恩を感じており、この状態を非常に悲しく思っています。そして、何とかしてこの業界を盛り上げていきたいと思っているのです。けれども、それには大きな障害があります。

 

この業界は、きちんと事業を受け継ぐシステムが出来上がっていないために、たとえ、二代目、三代目であっても、皆がイチから会社経営を叩き上げで学ぶ、という会社が多いように思うのです。そのため、業界を盛り上げる以前に、会社の事業承継をきちんとこなすことに多くのエネルギーが取られてしまい、会社をきちんとした形にしたら、またすぐに次の世代へバトンタッチしなければならない時期になってしまっている、ということが多いのではないでしょうか。

 

それでは、業界を盛り上げる、ということにエネルギーを割く余裕はありませんし、時間もありません。しかし、業界として、皆で結束して盛り上げていかなければ、多くの会社が潰れてしまうかもしれません。

 

筆者は、教えてくれる人もいない状態で久居運送を引き継ぎ、自分自身で悩み苦しみ、なんとか、12年間でそれなりの形に会社を持ってくることが出来ました。

10年を一区切りにして事業承継のことを考える

「10年ひと昔」と言われます。いまは時代のスピードが速くて3〜4年でどんどん変化していきますが、10年を一区切りと考えるといいと思います。

 

筆者が社長になったのが45歳で、いまは57歳。だいたい10年の月日が経っています。社長を10年やっていると、言葉は悪いですが、マンネリ化してきます。同じことの繰り返しで、だんだんと新しい変化に対応できなくなってきます。人によっては、まだまだ精力的に社長業をやっていこうとする人もいるでしょうが、社長になって10年経ったら、一区切りを付けて、承継のことを中心に会社のことを考える時期だと思います。

 

中小の運送会社は、ほとんどが同族会社ですから、後継者は親族になる場合が多いです。社長になって10年経ったら、そろそろ後継者をだれにするか考え、その後継者候補に、次期社長としての自覚を持つように促すべきでしょう。

譲る時期が明確になることで後継者に自覚が生まれる

たとえば、社長が50代になったら、そろそろバトンタッチを考え、60歳になったら完全にバトンタッチする。そういうタイミングがいいのではないかと思います。もちろん、社長になった年齢や後継者の年齢によって、多少の違いはあると思います。50歳で社長になったとしたら、そこから20年で70歳。そこで社長の椅子を譲ってもいいと思います。

 

中小企業の事業承継の基本モデルは、将来の社長は、20歳代で現場業務の習得、30歳代で社長の補佐、40歳代で社長、50歳代で後継者の育成、60歳代で第一線を退くという、大まかにこのくらいの計画がいいと思います。社長が50歳ぐらいで、まだ社長業を続けたいと思っていても、後継者が社長を継ぎたいという意思が強いなら、その時点で譲り渡すのもいいと思います。

 

いずれにしても、自分がいつまでも社長の椅子にしがみついていると、後継者に譲り渡すタイミングを逃してしまいます。後継者の方も、いつまで経っても承継の話が出てこなければ、社長になる覚悟を持つことができません。譲る時期が明確になることで、自覚が出てくるのです。社長業を譲る側が考えるべきことは、いつ引退するか、それを決めることです。そして、それを後継者にきちんと話すことが大切です。

本連載は、2016年3月10日刊行の書籍『できる運送会社の事業承継バイブル』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

できる運送会社の 事業承継バイブル

できる運送会社の 事業承継バイブル

菅内 章夫

エベイユ

同族会社の多い中小の運送会社にとって、承継問題は人ごとではないはずです。物流業界の厳しい環境を生き抜いていくためには? 承継を考える経営者がやるべきこととは? 家業を継ぎ、久居運送の社長になって会社を立て直した著…

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