平時から変化に柔軟に対応、危機管理能力を養う
おやじの河合も「そうだ。その通りだ」とうなずく。
「危機が来たらではなく、つねにそういう人を育てていれば、危機が来ても対応できる。現場はずいぶん前から変化への対応を始めているよ。EV化でいずれエンジンはなくなる。これは大きな変化だ。
だが、いきなりなくなるわけじゃない。少しずつ変わっていくわけだから、毎日が変化になる。うちの現場ではどこでも変化に耐えられる人を作っているところだ。変化に耐える人を育てていけば、何が起こっても順応してやっていく。
現場は目の前のものをいいものにしてたくさん作る、生産性を上げる。1円でも安く作る方法を考える。変化に耐えるとはそういうことだ。僕はこの競争力の意識がなくなったら、トヨタはただの会社になると思っとる」
確かにトヨタの生産現場は他社とは違う。トヨタの自動化ラインは、1度自動化したら終わりではない。例えば、3台のロボットを入れ、自動化しても徹底的にムダをなくす。改善して、3台のロボットが2台にならないかを考える。
2台になったら次は1台にならないかとまた改善する。そして生産増になったら3台のロボットで生産性を倍に上げる工夫をしようと考える。つねに進化させ続けるのがトヨタだ。
組み立てラインも月の生産量に合わせ、タクトを変更するし、ラインそのものを伸び縮みできるようにしている。そして、自動化ラインをシンプル・スリム・フレキシブルにするための生産技術革新を続けるのが日々の日課になっている。
組み立てラインでは作業者がアンドンのひもを引き、ラインを停止させたら管理職は直ちに確認して、同時に保全マンがかけつけて、再起動させる。再発防止はその後の段階だ。そして、バックアップ工程(手作業)に切り替え、ラインを起動させる。
トヨタの現場には河合の目が光っている。平時から変化に柔軟に対応することで危機管理能力を養っている。
(文中敬称略)
野地秩嘉
ノンフィクション作家