「ヘッジファンド」とは、様々な運用手法を駆使して、相場の上げ下げに関係なく「絶対リターン」を追求するファンドのことです。今回は、日本のヘッジファンド業界の実態について見ていきます。※本連載は、GCIアセット・マネジメント代表取締役CEOの山内英貴氏の著書『オルタナティブ投資入門―ヘッジファンドのすべて』(東洋経済新報社)より一部を抜粋・再編集したものです。

日本の運用会社は、「金融機関の子会社」が多い

年金基金などわが国機関投資家の間でも、ヘッジファンドを中心としたオルタナティブ投資が着実に浸透してきた。しかし、相変わらず国内の販売会社・運用会社が持ち込んでくる国外マネジャーへの運用委託が一般的であり、国内の潤沢な待機資金のためにさまざまなファンドが輸入されているのが実態だ。

 

専門性の高いオルタナティブ投資は、金融商品というよりも運用のアウトソーシングであり、なおかつマネジャーに成功報酬が支払われる点に特徴がある。マネジャーが顧客である投資家に対して絶対リターンを提供したときにはじめてマネジャーも成功報酬を獲得することから、運用規模拡大に対する経営インセンティブが働きがちな伝統的投資と比べて、投資家利益とマネジャーの利益が合致する優れた仕組みである。

 

だが、輸入中心の日本のマクロ・ポジションをよくよくみると、グローバル市場に対する最大規模の流動性供給者・リスク負担者となっていると考えられる。

 

日本からの資金を運用する海外のヘッジファンド・マネジャーたちは本邦投資家のリスクテイクのおかげで、成功報酬を目指した運用をすることができる。運用リターンに対するポジションとしては、マネジャーはコール・オプションをロングし、投資家はそれをショートしている(しかもプレミアムなしに)に等しい。

 

さらに、ヘッジファンド投資家が負担する運用報酬以外の経費の受け手となるサービス提供者はすべからく海外のプレイヤーであるし、それらの収益に対して日本国政府は課税できない。

 

わが国は、世界最大規模の債権国として、グローバル市場にリスク資本を供給する立場にある。資本をグローバルに投資して、良質な対外資産を運用しながら国内経済に還元することはわが国の将来にとって不可欠の課題である。

 

ことあるごとに金融再生が叫ばれるものの、議論の主役は相変わらず銀行・保険・証券であり、資産運用業は置き去りの感が否めない。そもそも日本の大手資産運用会社は、外資系を除けば銀行・保険・証券の子会社であり、運用リターンにこだわる企業文化を確立しているとは言い難い。

 

資産運用産業は、過去のストックが積みあがった成熟経済の金融インフラとしては重要であり、金融規制が間接金融機関によるリスク・マネー供給機能を制約する環境ではなおさらである。

 

ヘッジファンドをはじめとする専門的な資産運用事業を育てていくためには、グローバルな枠組みと整合性のとれた規制・税制などの事業環境整備が大切であることは論をまたない。結果が数字で明確に出る資産運用業はグローバルな競争力がないと勝負にならないのは明らかである。しかし、それは野球にたとえるなら、いいプレー・いい試合をするためにルール・ブックとグラウンドの整備が必要という類の議論である。

 

わが国資産運用業界をより活性化させて、国際競争力を向上させるための主役はあくまでも運用会社と投資家であることを強調しておきたい。いかにすばらしい環境が用意されても、そこでプレーするのは運用会社と投資家なのである。

 

運用会社がグローバル基準で遜色ない運用サービスを提供するために一層の努力を続ける必要があることはいうまでもない。しかも、出遅れを取り戻すためにはそれだけでは足りず、将来を見通して近道を選んでいくようなセンスというか“something”が必要だ。そして、そうした胎動を結実させるためには、わが国投資家による意識改革と、各自の判断に自信と責任を持った行動こそが、どうしても必要だと思う。

 

米国の大学財団は資産の大半をオルタナティブに配分しているが、投資先マネジャーとの取引期間は長い。あるトップクラスの財団は平均投資期間が17年だという。顔が見えて、意思疎通が十分にはかれるのだろう。

 

長く深い信頼関係に裏打ちされたプロフェッショナルな対話は、双方にとって、運用パフォーマンスだけでなく、さまざまな副次的効果をもたらすことだろう。マネジャー・スキルに依存するオルタナティブ投資は、巷にあふれる“旬の金融商品”ではない。

 

終わることのないマーケットとの勝負に一緒に臨むパートナーなのである。

 

山内 英貴

株式会社GCIアセット・マネジメント 代表取締役CEO

 

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山内 英貴

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