米10年実質金利(米10年物価連動国債利回り)は、「経済の正常化期待」や「巨額の財政支出観測」等を背景に、今年1月4日時点の-1.12%から2月25日時点の-0.61%まで大きく上昇した。これが米国株のバリュエーションを押し下げるきっかけになったわけだが、米実質金利をS&P500指数の益利回りと比較すれば、依然として株式には「投資妙味」があると考えられる。※投資のプロフェッショナルである機関投資家からも評判のピクテ投信投資顧問株式会社、DEEP INSIGHT。本連載では日々のマーケット情報や政治動向を専門家が読み解き、深く分析・解説します。

調査官は重加算税をかけたがる
相続税の「税務調査」の実態と対処方法
5/19(日)>>>WEBセミナー

実質金利の絶対水準が株式のバリュエーションを左右すると考えられているが…

実質金利は名目金利から期待インフレ率を差し引いて求められる指標で、長期的には潜在成長率に近似する。世界的に新型コロナワクチンの接種が開始されていることから、「経済の正常化」に対する期待感が高まっているほか、米バイデン政権による約1.9兆ドルの「財政支出」によって景気がさらに刺激されることを勘案すれば、マイナス金利状態にある米実質金利がゼロ%に向かって上昇したとしても、特段の違和感は無い。

 

株式市場においても、経済見通しが上方修正されていることを踏まえれば、実質金利の上昇は(本来であれば)歓迎されてしかるべき事象である。

 

しかし、足元では実質金利の上昇が、バリュエーションの低下要因として株安を誘引している。たしかに、コロナ禍においては実質金利の低下とともに益利回りも低下(PERは上昇)してきたため、絶対水準で捉えれば実質金利の上昇は益利回りの上昇(PERの低下)をもたらしそうだ(図表1)。だが、実質金利と益利回りの相対水準で比較すると、景色は大きく異なって見える。

 

週次、益利回りはコンセンサス予想PER(12ヵ月先)の逆数 米10年実質金利は米10年物価連動国債利回り 期間:1997年1月31日~2021年3月5日 出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ投信投資顧問作成

[図表1]S&P500指数益利回りと米10年実質金利の推移 週次、益利回りはコンセンサス予想PER(12ヵ月先)の逆数
米10年実質金利は米10年物価連動国債利回り
期間:1997年1月31日~2021年3月5日
出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ投信投資顧問作成

実際は実質金利との相対水準のほうが相場をうまく説明できる

株式市場のバリュエーション指標のひとつに「イールド・スプレッド」という投資尺度がある。これは、益利回りから米10年国債利回りを差し引いた「利回り差」から、株式が債券に対して割安か割高かを判断するものだ(通常は名目金利が使用されることが多いが、本レポートではいま市場で注目されている実質金利に置き換えて検証している)。

 

このS&P500指数の益利回りから米10年実質金利(米10年物価連動国債利回り)を差し引いた「イールド・スプレッド」は直近5%台で推移しており、実はITバブル期における0%前後の水準と比較すると、足元は株式が相対的に割安であることが分かる(図表2)。

 

週次、益利回りはコンセンサス予想PER(12ヵ月先)の逆数 米10年実質金利は米10年物価連動国債利回り 期間:1997年1月31日~2021年3月5日 出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ投信投資顧問作成
[図表2]S&P500指数益利回りと米10年実質金利の差 週次、益利回りはコンセンサス予想PER(12ヵ月先)の逆数
米10年実質金利は米10年物価連動国債利回り
期間:1997年1月31日~2021年3月5日
出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ投信投資顧問作成

 

また、今回のように実質金利が大きく上昇した2013年5月22日以降の「テーパー・タントラム(バーナンキ元FRB議長が突如として量的緩和の縮小に言及したことで長期金利が上昇した)」時も、実質金利は2013年5月21日の-0.40%から同年9月5日まで+0.91%まで大幅に上昇したが、S&P500指数の益利回りはゆるやかに低下した(イールド・スプレッドは縮小した)ことから、イールド・スプレッドの相対的水準が株式市場の動向を左右する(株式が債券と比較して相対的に割安であれば株式は下がりづらい)ことが分かる。株式のほうが相対的に「投資妙味」があると考えられる理由がここにある。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米実質金利上昇でも株式に「投資妙味あり」か?』を参照)。

 

(2021年3月8日)

 

田中 純平

ピクテ投信投資顧問株式会社 

運用・商品本部 投資戦略部 ストラテジスト

 

\PR/ 年間延べ7000人以上が視聴!
カメハメハ倶楽部
「資産運用」セミナー

 

カメハメハ倶楽部セミナー・イベント

【5/7開催】ABBA案件の成功体験から投資戦略も解説
世界の有名アーティスト「音楽著作権」へのパッション投資とは

 

【5/8開催】使わない理由はない!?
金融資産1億円以上の方だからできる「新NISA」活用術

 

【5/8開催】「相続登記」を放置するとどんなトラブルに?!
2024年4月施行「相続登記の義務化」を専門弁護士がイチから解説

 

【5/9開催】認知症対策だけじゃない!
数世代先の相続まで見据えた資産管理・承継ができる
「家族信託」活用術

 

【5/9開催】「海外法人のつくり方・つかい方」
日本に居ながら自分の「分身」を海外に作るメリットは何か?

 

【5/11開催】相続人の頭を悩ませ続ける
「共有名義不動産」の出口は“売却”だけじゃない!
問題点と最新の解決策を藤宮浩氏が特別解説

 

【5/12開催】良い案件を見つける3つの方策とは?
「日本型オペレーティングリース」投資の基礎講座

【ご注意】
●当レポートはピクテ投信投資顧問株式会社が作成したものであり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。当レポートに基づいて取られた投資行動の結果については、ピクテ投信投資顧問株式会社、幻冬舎グループは責任を負いません。
●当レポートに記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当レポートは信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当レポート中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資家保護基金の対象とはなりません。
●当レポートに掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録