いくらでも方法はあったものの…
資産を築いた成功体験が忘れられずに思考停止
このケースは、Aさんが生前にほとんど何も、相続に向けて手を打っていなかったところに根本的な原因があります。会社の顧問税理士が相続税にうとく、適切なアドバイスをもらえなかったということもあるでしょう。
相続人である子どもたちの仲が予想以上にこじれたのも、ある意味、Aさんの手際の悪さが影響しています。
例えば、遺言の付言事項で「兄弟姉妹仲良くするように」と言い残し、相続についても長男以外のお子さんにある程度まとまった資産が渡るようにしていたら、ここまでもめることはなかったと思います。
しかし、Aさんにとっては戦後の焼け野原の中、裸一貫から会社を立ち上げた成功体験が強烈で、事業が次第にうまくいかなくなっても、その現実をきちんと受け止められなかったのです。ある意味、思考停止の状態になってしまい、相続のことまで頭が回らなかったのでしょう。
長男以外の子どもたちにとっても、かつて事業が順調で羽振りがよかった頃の父親のイメージしかなく、それなりの遺産をもらえるものと思い込んでいました。
それが、いざ蓋を開けてみたら何にもないと言われ、「それなら二次相続で母親から受け継ぐ分を先にもらってしまおう」となったようです。
長男にとっては、会社の株式を分散させずに引き継げたのはよかったものの、事業があまり芳しくないところに、納税資金として1億円も借り入れが増えたのはやはり手痛いダメージです。
事前に講じることが可能だった相続税対策はいろいろあります。
例えば、会社からAさんに退職金を生前に支払って株価を下げ、自社株の一部を生前贈与しておけば相続税の負担は減らせたはずです。
また、会社からAさんに支払われた退職金で自宅の敷地を会社から買い取っておけば、「小規模宅地等の特例」を使いつつ妻に相続させ、二次相続の際に長男以外の子どもたちに分与するといった工夫もできたでしょう。
あるいは、相続発生後についても、自社株の評価に当たって、在庫の評価について税務署ときちんと交渉すれば、やはり相続税の負担を大きく引き下げられたはずです。
何も手を打たなかったための代償は、あまりにも大きいといえます。
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