みなさんは「行動経済学」という学問分野をご存じでしょうか。経済学と心理学のコラボレーション的な学問なのですが、そこでは「人間の脳が引き起こす錯覚」等も研究されています。本記事では、そんな錯覚を応用して、人々の努力へのインセンティブを高める経済手法を見てみましょう。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

人は「得る喜び」より「失う悲しみ」のほうが大きい

行動経済学の研究によれば、人間は「儲かった喜び」よりも、同額を「損した悲しみ」のほうが大きいのだそうです。賭けごとを嫌う人が多いのはいろいろな理由がありますが、そのひとつはこれでしょう。

 

ここから考えると、他人に努力のインセンティブを与えるために「成功報酬を先に渡してしまう」という方法が考えられます。「成功報酬を先に渡すけれど、失敗したら返してね」というわけです。

 

「成功したら報酬を渡す」と言われた場合の努力のインセンティブは「得る喜び」になりますが、「失敗したら返してもらう」と言われたら、努力のインセンティブは「失う悲しみから逃れる」ことになるため、その方がインセンティブは大きそうです。

手に入れたら手放したくない「執着のメカニズム」

行動経済学によれば、人間は一度所有権を持ったものには愛着を感じる性格があるそうです。

 

アメリカで行われた実験ですが、学生たちになにかしらの小物を見せて「何ドルなら買うか」と聞いた場合と、同じ小物を学生に配って「何ドルなら売ってもよいか」と聞いた場合を比較すると、後者の方がはるかに大きな金額の回答がありました。

 

つまり、所有権を得る前に小物に感じていた価値と、所有権を得たあとに小物に感じている価値に大きな違いがある、ということですね。一度所有したものには愛着が生まれるので、高く売れるのでなければ手放したくない、というわけです。

 

子どもに「よい成績をとったらゲームを買ってあげる」というよりも「ゲームを買ってあげるけど、成績が悪かったら返してもらうよ」といったほうが、ゲームの価値が大きく感じられ、失いたくないという一心で勉強するようになることが期待できそうです。

 

一度所有権を得たものに愛着を感じる、という人間の錯覚をうまく利用したのが、通信販売の「返品自由」かもしれません。買う前にはそれほど価値は感じていなくても、「まあ、気に入らなかったら返品すればよいのだから」と軽い気持ちで買うことができるので、買い注文は増えるはずです。

 

しかし、実際に品物が届いて所有権を手にすると、愛着を感じて返品するのが惜しくなるそうです。実際、返品率はそれほど高くないと聞いたこともあります。

 

また、日本人の場合は「返品するのは申し訳ない」という気持ちも働きやすいのでしょう。もっとも、それが商売にプラスに働いているか否かはむずかしいところです。そのように感じる人は、そもそも軽い気持ちで注文しないでしょうから。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

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