税務調査でもリスク…「社長の役員報酬が過大では?」
ほかにも、税務調査の場面で、社長の認知症が問題となる可能性があります。本来、役員報酬は、職務執行の対価として支払われます。社長が認知症になり、判断能力を失えば、今までどおりに、職務を執行することができなくなります。
会社が税務調査を受けたときに、その社長に支払った役員報酬が健常時と同等に高額であれば、過大だと指摘される可能性も否定できません。
認知症を発症すると「できなくなる」相続税対策
社長亡き後、遺産を残された相続人が困らないように、相続の生前対策をしたい方もいるかと思いますが、社長が認知症になり、判断能力を失ってしまうと、生前の意思表示を要する相続対策は基本的にできなくなってしまいます(図表2参照)。
成年後見人がつくと動かせなくなる「社長の口座」
次に、成年後見人が付された社長の個人資産について見ていきましょう。後見開始の審判が確定して以降、成年後見人が社長(以下、本人)の財産を適切に維持・管理していきます。そのため、本人(またはその親族)による自己の預貯金の払い戻しなどはできなくなりますので、ご留意ください。
【参考】金融機関の預金規定には、次のような届出義務と免責規定が置かれており、職務を開始した成年後見人は、金融機関に届出をします。
届出義務:家庭裁判所の審判により、補助・保佐・後見が開始された場合には、直ちに成年後見人等の氏名その他必要な事項を書面によって届出をする。
免責規定:届出の前に生じた損害について、金融機関は責任を負わない。
上記免責規定は、合理的な定めとして有効であり、この届出をしない間に行った(本人による)預金の払い戻しを取り消すことができない(金融機関は、当該払戻相当額の返還義務は負わない)と解されています(注1)が、「窓口において預金者の判断力を疑うべき事情があるのに、特段の確認をすることなく漫然と払い戻しに応じたような場合には、取引安全を考慮する必要がないとして、金融機関が免責されない可能性もあります」(注2)。
金融機関が、顧客の判断能力の有無を都度確認する負担と看過したときのリスクを抱えていることを頭の片隅に置いておきましょう。
注1 東京高判平成22・12・8金融・商事判例1383号42頁
注2 笹川豪介編著『金融実務に役立つ成年後見制度Q&A』182頁(経済法令研究会、2017)
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