「手術が好き」ただそれだけだった…。新人外科医:山川が見た、壮絶な医療現場のリアル。※勤務医・月村易人氏の小説『孤独な子ドクター』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、連載していきます。

「3階A病棟、コードブルー」

去年までいた石山病院は、内科、外科、小児科、産婦人科を標榜している地域に根ざした病院だった。研修医が1学年3人で研修病院としては規模の小さい病院である。

 

お互いにライバル意識もないわけではないが、みんなで力を合わせて研修していこうという気張らない雰囲気があった。

 

同期には、救急科志望の細山と産婦人科志望の宮岡がいた。僕は2人とは違って、初期研修が始まった段階では何科になりたいか決まっていなかった。

 

医者といえば、いろいろな疾患を頭に浮かべて適切な検査を行い鑑別し、治療するという内科医のイメージが強く、内科に対する憧れがあった。

 

ただ、手先が器用だった僕はどちらかといえば外科系が向いているのではないかと自分では思っていた。それに、僕は手術を見るのが好きだったし、自分でもやってみたかった。

 

3人は出身大学もばらばらでそれぞれ特徴も違った。

 

「3階A病棟、コードブルー」

 

館内放送が流れる。コードブルー。これは患者さんが今まさに心肺停止になった際に、スタッフを集めるためのサインである。

 

「コードブルーか、行かないと」

 

この放送を聞いたら無条件に向かうようにと日頃から上級医に口を酸っぱくして言われていた。いつでも対応できるよう心肺蘇生法については講習を受けていたし、普段から折に触れて練習していた。

 

しかし、僕は実際に心肺停止状態の患者を前にすると頭の中が真っ白になってしまい、あたふたしてどうしていいか分からなくなってしまう。コードブルーが苦手なのは宮岡も一緒だった。

 

「1、2、3、4、5、6、7、8」

 

少しして現場に到着すると、すでに胸骨圧迫のかけ声が響いていた。細山の声だ。

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孤独な子ドクター

孤独な子ドクター

月村 易人

幻冬舎メディアコンサルティング

現役外科医が描く、医療奮闘記。 「手術が好き」ただそれだけだった…。山川悠は、研修期間を終えて東国病院に勤めはじめた1年目の外科医。不慣れな手術室で一人動けず立ち尽くしたり、患者さんに舐められないようコミュニ…

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