新型コロナより怖い、老人抹殺社会の現実が忍び寄ってきている。「老人はもう長生きしない。なぜなら、老人を殺してもおかしくない社会になっているからだ」――。老人ホームの裏の裏まで知り尽くす第一人者が明かす、驚愕の事実。超高齢化社会ニッポンが抱える問題点を明らかにする。本連載は小嶋勝利著『もはや老人はいらない!』(ビジネス社)から一部を抜粋、編集したものです。

介護付き有料老人ホームの設置に総量規制

法令を遵守すれば、次々と大倒産が

 

住宅型老人ホームという、説明の難しい老人ホームが世の中にはたくさんあります。その前に、この住宅型老人ホームについて説明をしていきます。

 

老人ホームの歴史を紐解くと、古くは要介護の高齢者は特別養護老人ホーム、元気で裕福な高齢者は健康型の老人ホームという区分がありました。その後、一般的に有料老人ホームの代名詞として「介護付き有料老人ホーム」が登場しました。2000年から介護保険制度のスタートを受けて、多くの企業がビジネスチャンスだと判断し、介護付き有料老人ホームが首都圏を中心に林立していきます。バブル経済当時のマンション販売ではありませんが、それこそ建てれば簡単に入居者が集まりました。

 

介護事業者は行政の規制に翻弄されてきた。(※写真はイメージです/PIXTA)
介護事業者は行政の規制に翻弄されてきた。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

私の記憶ではたしか平成15年頃から、あまりにも急増した介護付き有料老人ホームの台頭に困った行政は介護付き有料老人ホームの設置に対し、総量規制を開始しました。今までの「自由に建ててください」という話を、都道府県や市区町村が作成した介護保険計画に合わせて設置をするというルールに急に変えてしまったのです。A県は今年、介護付き有料老人ホームの整備ベット数を300ベッドとする計画だったとすると、新規のベッド数が300ベッドになったら、その以降の老人ホーム新設は来年以降でなければ認めないというイメージです。

 

今まで自由に老人ホームを設置してきた多くの老人ホーム事業者は、急に新しいホームを気軽に設置することが事実上できなくなり、自社の事業計画の大幅な修正を余儀なくされてしまいました。

 

経営の理屈で言うと、長期的な目線で老人ホームを建設し、事業の継続を目指している企業の場合、まずは赤字でもよいのでベッド数(ホーム数)を増やし、入居者を獲得することが大切です。A社の場合、事業収支の損益分岐点が入居者1000人だとすると、1000室までは赤字でもかまわない。その後、黒字に転換していくというストーリーを描きます。その矢先に「もう建てさせませんよ」と行政にやられたわけですから、事業者側は手を打たないと倒産してしまいます。

 

ちなみに、なぜ総量規制がかかったかというと、こんな側面があります。

 

介護付き有料老人ホームは、「特定施設入居者生活介護」なる介護保険法上の指定を受けることで、特別養護老人ホームと同じスキームで運営することが可能になります。要介護2の人が入居した場合は、事業者に対し国は要介護2の人用の固定額の介護保険報酬を毎月支払わなくてはならなくなるのです。保険者(国、都道府県、市区町村)の立場で考えた場合、管掌地域内に100室の介護付き有料老人ホームが新設されると、100人分の介護保険報酬の支払いが半永久的に確定することになります。どんどん新規の介護付き有料老人ホームが増えると、どんどん介護保険報酬を支払わなければならなくなり、結果、財政が悪化していくことを意味します。

 

さらに、もともと自分たちの地域に長年住んでいた高齢者に対する老人ホームならいざ知らず、都会から流れてきた高齢者が要介護状態になったからといって、自分たちの地域が彼らの介護保険報酬を負担することに「納得がいかない」と考える行政も多くありました。

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