新型コロナウイルスの感染拡大によって不動産の世界は激変している。景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

働き方が変わると組織も経営手法も変わる

働き方が変わる、ということは企業組織が変わる、あるいは経営手法が変わってくることを意味します。さてこれからの時代、会社はどのように変わっていくのでしょうか。

 

コロナ禍が生じる一年ほど前、以前一緒に本を出版したことがある出版社の編集者が、私のところに訪ねてきました。新しい企画の打ち合わせがひととおりすんだ後、彼はやや深刻な顔つきで、私に相談事があると言ってきました。

 

働き方が変わると企業組織が変わる。(※写真はイメージです/PIXTA)
働き方が変わると企業組織が変わる。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

「うちの会社、今度埼玉県に引っ越しちゃうんです。自分は横浜の奥のほうなので、ちょっと通えないのですよ。マンション、去年買ったばかりだし、本当に参りました。今さら埼玉に引っ越すのもね。都内はマンション高いし」

 

都心部のオフィス賃料はここ数年高騰が続いています。都心を抜け出して郊外にオフィスを構える企業が出てきても仕方がない、という事情はわかります。そのとき、私ができたアドバイスは横浜のマンションは賃貸に出して、その賃料でローン返済しながら、埼玉県で賃貸マンションを借りれば、という程度の情けないものでした。

 

ところが、それから数カ月後、件の担当者がやってきたので、
「おすまい、どうなりました?」
と尋ねたところ、彼はすがすがしい顔で、
「あっ、埼玉には引っ越しません」
とおっしゃいます。
「えっ、通う決心ついたんだ」
「いえ、本社には基本的に通わなくてよいことになったんです」

 

編集者の仕事は著者のところに行くのが主体、原稿もワードなどのパソコンソフトが中心となったので、都心のコワーキング施設などを活用して編集し、あとは本社に送信すればすんでしまいます。埼玉の本社には月数回通えばよいことになったため、横浜から引っ越す必要はなくなった、と言います。

 

これは、ほんの一年前の話です。私も小さな会社を経営する経営者の端くれ。そのときの彼の話は妙に納得できるものでした。きっと本社側からすれば、まず埼玉県に移転することでオフィスなどの固定費は大幅に削減できます。ただ、神奈川県や千葉県在住の社員の通勤費は膨らむ。

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不動産で知る日本のこれから

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