どうやって老人ホームを選んだらいいのか? それには入居者の生の声を聞くのが一番と、国内最大の老人ホーム紹介センターを経営する著者は断言します。そこで著者は、数々の入居者のエピソードを通して、ホームでの暮らしの悲喜こもごもを紹介。現在、国内最大の老人ホーム紹介センターを経営する著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『老人ホーム リアルな暮らし』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

毎月1回、会社の重役がお見舞いに訪れる

■エピソード8
居室で役員会議? 元経営者の口癖は「偉くなるには運と要領だ」

 

Tさんは上場企業の元会長。80歳の男性で、要介護3、認知症の症状もちらほらとあります。しかし、今でも会社経営に対し影響力を持っているのか、毎月1回、彼の居室には、会社の重役が大勢訪れます。彼に言わせると、会社の業績報告に会長や社長など役員が来るのだと得意げに話しますが……。

 

就寝前に、必ず職員に昔話をする元経営者の男性入居者。(※写真はイメージです/PIXTA)
就寝前に、必ず職員に昔話をする元経営者の男性入居者。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

ちなみに、多くの役員は当然ですが彼の元部下ということになります。私の目から見ても、会社の経営陣が経営に関する報告や助言をもらいに来ているとは、とうてい見えません。どちらかというと、お見舞いに来ている、会社の功労者に対し敬愛の情で来ているというところだと思います。

 

Tさんは北陸地方の農家の生まれで、若い時に仕事を求め、上京したそうです。途中、戦争で中国に出征もしています。その後、洋品店を営んでいた家の女性と結婚、その洋品店を才覚でもって拡大発展させ、一部の地域の人にとっては、知る人ぞ知る有名な総合スーパーに育て上げました。まさに、絵に描いたような立身出世をした人物です。

 

そんなTさんですが、就寝前に、必ず職員に昔話を話します。職員が、寝る前の眠剤を持って居室に行くと、いつものルーティンとして昔話が始まるのです。自分がどうして成功したのかという話です。その話がきわめて現実的で、脚色のない正直な話なのでとても面白く、役に立ちます。彼に言わせると、人が出世するためには「運」が良くないとダメだそうです。どんなに頭が良くても、運のない人は絶対に出世はしないそうです。そして、「要領」が良くない人も出世できないと言います。昔話の中で「馬鹿正直じゃだめなんだ」「ずる賢くないと成功はしない」という意味の言葉をよく口にしていました。

 

Tさんは、兵隊として中国に出征しました。出征場所や所属は定かではありませんが、補充部隊の軍曹だったといいます。補充部隊とは、最前線で戦っている部隊に、後方から武器や食料などを供給する係のようです。第1補充とか第2補充とかといって、いくつもあるそうです。当然、最前線で戦う部隊は、敵と直接戦うのが任務なので、どう考えても危険です。しかし、補充部隊は敵と直接戦うことはなかったそうです。真実がどこにあるかはまったく不明ですが、Tさんの話によると、自分は身体が小さく、虚弱だったために、戦う部隊では役に立たないと判断され、補充部隊に配属になったのだと言います。

 

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