一般企業では既に始まっている時間外労働の上限規制が、2024年4月から医師にも適用される。勤務医の時間外労働時間を「原則、年間960時間までとする」とされているが、その実現は困難ではないかと指摘されている。その「医師の働き方改革」を実現した医師がいる。「現場のニーズに応え、仕事の流れを変えれば医師でも定時に帰宅できる」という。わずか2年半で、どのように医師の5時帰宅を可能にしたのか――、その舞台裏を明らかにする。

企業では徹底、年間360時間以内の残業時間

すでに2019年から始まっている「働き方改革関連法」によって、大企業を先頭に多くの企業が驚くようなスピードで従業員の残業時間を減少させています。私自身、産業医として様々な企業の衛生委員会に出席したり、産業医同士の勉強会などでディスカッションする中で、実に多くの企業が1年ではっきりとした成果を出していることに驚愕し、この劇的な時代の変化を肌で強く感じているのです。

 

産業医の先生方も口々に「ここまで変われるものなのか」と言い、その驚きが隠せないでいます。

 

「残業時間は年間360時間以内にとどめる」「45時間以上残業した月が年間7回を超えないようにする」といった「働き方改革」の基準は、一昔前には遵守不可能で非現実的だと思われていたはずです。にもかかわらず、一般企業ではすでにかなり徹底されてきています。「24時間働けますか!?」がサラリーマンの応援歌となっていた一世代前の日本では、全く想像もつかなかったような事態だと言わざるを得ません。

 

経済産業省が従業員の健康管理に注力する企業を「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人」として認定して、公表しています。これは一つの象徴でしょうが、令和の時代は従業員の健康に配慮し「働きやすい環境を整えている」会社が注目されて、「今から伸びていく会社」として求職者が集まっていくように感じます。昭和の時代のような、安定感を求めて大会社に人が集まった時代とは、隔世の感があります。

 

しかも、どこが働きやすい環境を整えている会社か、逆にどこがそうでない会社かは、ニュースや新聞だけでなく、インターネットでも日々アップデートされて広がっていくのです。

 

実際、労働環境は多くの人が関心をもっている分野と見え、一般企業が独自の観点から作成した「ホワイト企業ランキング」なるものも登場し、就職活動中の学生がそれを大いに活用しています。

 

我々産業医が見ていても、一般企業における「健康経営」関連を前面に打ち出すアピール合戦には凄まじいものがあります。残業・喫煙・メタボ対策などへの取り組みに熱が入り、どの企業も健康志向度合いが年々高まっているのです。もちろん働きすぎや過労死の回避もこの健康志向に強く含まれるようになってきています。

 

このように働く者の健康を考え、労働環境を整えていくために経営者が尽力することは、医学界にとって「対岸の火事」ではありません。研修医や若い看護師などは、高校時代の同級生など他業種で働く同世代と、働く環境を含めさまざまな情報の交換を盛んに行っています。「『医療従事者は人の命を扱う』のだから厳しい労働環境におかれても耐えるべき」という経営者や管理職の「べき論」は全く通用しなくなってきています。

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