今や観光地の一部となっている「新宿・歌舞伎町」。もちろん、物騒な話題も取り沙汰されるものの、昔と比べたら随分「マシ」になったと感じる人もいることでしょう。全盛期の様相を思い出すことはできますか? 株式会社未来投資不動産代表取締役社長・川嶋謙一氏が、一昔前の歌舞伎町について語ります。

あらゆる魚が住む濁った水のような場所「歌舞伎町」

私が借金返済のために新宿歌舞伎町にやってきたのは、今から30年前でした。歌舞伎町で寝泊まりしていましたので、1日中歌舞伎町にいたわけです。当時は歌舞伎町全盛時代で、いわゆるバブル景気と呼ばれる時代の幕開けのときでした。

 

私は株に手を染めたばかりの頃でしたが、1987年10月19日のブラックマンデーを目の当たりにしたのも歌舞伎町です。そんな時代のヤクザは、歌舞伎町を肩で風を切って歩いていて、しかも何人かで連れ立って歩き、誰かにぶつかったり目が合ったりすれば即座にイチャモンをつけて暴力沙汰に持ち込み、「おとしまえ」と称して金をせびっていたものです。大規模な暴力団の影はなく、地場を仕切っているいくつかのヤクザが線引きして縄張りを守っていました。

 

当時の歌舞伎町は、あらゆる魚が住む濁った水のような場所で、違法な博打やゲームの店が人気を呼び、1本5000~1万円が相場になっていた裏ビデオ、それにビニ本と呼ばれるビニール袋に入った露骨なわいせつ写真集が飛ぶように売れるという時代でした。歌舞伎町のマンションは、歌舞伎町で働く人や外国人でほとんど空室のない状態で、共用部分にも絶えず人の往来があり、今にして思えば、とても物騒だったんだなと感じます。

 

ほとんどのマンションにはヤクザの金看板があったり、ドアの上や廊下に監視カメラが設置してある部屋があったりして、ダブルのスーツを着たイカツイ男たちが出入りしていたものでした。ときどきエレベーターでそういった人たちと乗り合わせてしまい、気まずい思いをしたものです。

 

私の住んでいたマンションには大きな組が入っていたようで、マンション前の道路には絶えず黒塗りで運転手付きのセンチュリーやベンツが待機していましたし、時にはエントランスやエレベーター前に組の若い衆や幹部が整列していたりしていました。しばらくしてエレベーターから落ち着き払った親分が、日本刀を肩に乗せた用心棒風の男と一緒に出てくると、若い衆や幹部が次々に頭を下げ、「ご苦労さんです」などと声を発していたのです。

 

どこのマンションでも、大なり小なり組事務所が入っていて、管理人も見て見ぬふりをしていたようです。

 

住人はといえば、まったく気にすることなく共存共栄のスタイルでした。住人には歌舞伎町の飲食店で働く人も多かったようですが、組の幹部クラスは飲み屋で羽振りよく金を使って飲んでいましたし、トラブルがあっても警察を呼べないような違法エステ、ゲーム屋、ぼったくりの店などは組にケツ持ち料(みかじめ料)を払っており、客とのトラブルなどの際には始末をつけてもらうなど面倒を見てもらっている関係上、ヤクザは必要悪となっていました。そのため、ヤクザがいる風景は当たり前だったのです。

 

その後、「たまごっち」という小さなゲーム機が大流行したときには、どこに行っても売り切れで買えず、プレミアが付いて1個1万円でも買いたいという人が続出しました。そんなとき、歌舞伎町で働く友人が私に「子供にあげて」と2個譲ってくれたのですが、「どこから買ったの?」と聞いてみると「ヤクザに売ってもらった」という返答でビックリしたものです。ヤクザは儲かることは何でもやるんだな、と鳥肌が立ったのを覚えています。

 

歌舞伎町、全盛期の様子は
歌舞伎町、全盛期の様子は

昨今は「外国人投資家」が台頭し、物件価格が上昇

1992(平成4)年に暴力団対策法が施行されてからは、徐々にヤクザは鳴りを潜めていき、警察の監視の下、簡単には事務所を開けなくなりました。また2004(平成16)年には石原慎太郎東京都知事(当時)による「歌舞伎町浄化作戦」と呼ばれる大規模な改革により、濁っていた歌舞伎町の水は透明度が高くなっていったのです。

 

水がきれいになると同時に、歌舞伎町のマンションには空室が目立ち、家賃が入らなくなったこともあって区分所有マンションの売り物件が増え、1Rマンションなどは安値を更新して400万~600万円のマンションがゴロゴロ出るようになっていました。

 

誰も手を付けなくて放置されていたのですが、円安や東京オリンピック開催決定の影響と、さらに2015(平成27)年は3年ごとに行う固定資産税の評価の見直しの年に当たり、評価が高くなったこともあって、中国人を筆頭に台湾人や日本人の投資家などがこぞって買いに入っているのです。中国などの海外投資家はマンション購入ツアーで来日し、数日のうちにマンションを買って帰ります。そうした投資家が爆発的に増えて、あっという間に歌舞伎町の1Rマンションがなくなってしまいました。これも「爆買い」ですね。

 

私の会社は中国の不動産屋とパイプがあり、観光を兼ねたマンション購入ツアーの人たちがときどきやってきました。あらかじめメールでマンションの図面などは送ってあるのですが、彼らはほとんど物件を見ないで契約してしまいます。これを不動産業界では「不見転(みずてん)」といい、物件を見ないで買ったり借りたりすることを指します。

 

本来の意味は、花札でその場の状況を見ずに手持ちの札を手当たり次第に出すこと、あるいは芸者がどんな相手でも金次第で情を売る(転ぶ)ことを指すそうですが、どちらにしてもあまりいい意味には使われないようですね。

 

海外投資家の爆買いのおかげで、歌舞伎町のマンションは今や売り物件がなくなっています。私の会社も管理や賃貸の仲介を任されていますが、大家さんは中国人、台湾人がほとんどです。また、ほとんど売りに出ることはありませんが、たまに出る売り物件を見てみると、かつて400万~600万円だった物件が700万~1000万円前後にまで上がっています。これはまさしくバブルといえるのではないでしょうか。

誰も知らない不動産屋のウラ話

誰も知らない不動産屋のウラ話

川嶋 謙一

幻冬舎メディアコンサルティング

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