いつの時代にも尽きない「離婚トラブル」。離婚を決心するだけでも大変なのに、相手が非を認めない、なかなか合意してくれない、条件が折り合わない…など、その先にはさまざまな壁が立ちはだかります。本連載では、西村隆志法律事務所・西村隆志氏の書籍『キッチリけりがつく離婚術』(東邦出版)より一部を抜粋し、実際の事例を紹介しながら、対処法を解説します。本記事のテーマは「配偶者の不倫」。

精神的苦痛の慰謝料として損害賠償を双方に請求できる

夫(妻)が浮気をした場合、妻(夫)は、不貞行為をした夫(妻)とその不倫相手に対しても、精神的苦痛の慰謝料として、損害賠償を請求することができます。ただし、夫婦関係がすでに破綻している状態で、別居後に配偶者が異性と性的関係をもった場合は慰謝料の請求はできません。同居中でもすでに家庭内別居の状態の場合も同様で、破綻後の関係とされ、認められない場合もあります。

 

また、不貞行為をした配偶者が、結婚していることを隠していた場合や性的関係を強要した場合などでは、不倫相手に対しての慰謝料の請求はむずかしくなります。

 

夫(妻)と不倫相手の両方に対して慰謝料を請求する場合、たとえば、その一方から相応の慰謝料がすでに支払われたような場合には、もう一方に対する慰謝料請求は認められなくなる可能性が高いです。つまり、二重取りはできないので注意が必要です。

 

そのため、もし、慰謝料は不倫相手に請求し、夫(妻)からは財産分与だけもらいたいと考えている場合には、夫(妻)と財産分与の合意をするときには、それが財産分与として支払われたものであることを明確にしておくことが必要です。

 

このあたりをあいまいにして、「一切の解決金」というような名目で支払を受けてしまうと、支払を受けた金額の中に、慰謝料が一部含まれているのではないかと疑われてしまうからです。このあたりの文言で気になるところがありましたら、弁護士に相談されることをおすすめします。

 

◆最高裁「不貞相手には〝離婚慰謝料〟の賠償義務はない」との判断

 

ここで、近時の重要判例である最高裁平成31(2019)年2月19日判決(以下、「本判決」)をご紹介します。

 

●判決までの事実経過

 

まず、本件事案の時系列は次のとおりです。

 

1994年 結婚。

2008年12月頃 妻が勤務先で不貞相手と知り合い、2009年6月以降不貞行為に及ぶ(不法行為の存在)。

2010年5月頃 夫が妻の不貞行為及び不貞相手を知る(不貞行為を理由とする消滅時効期間の開始)。

2014年4月 夫婦は別居に至る。

2014年11月頃 夫が離婚調停を申し立てる。

2015年2月 離婚成立。

2015年11月 元夫が第三者(元妻の不貞相手)に対して、慰謝料を求めて訴え提起(不貞行為を知ってから3年以上経過。ただし、離婚成立からはわずか9か月経過)。

 

相関図

 

という事実経過になります。

 

元夫の訴えに対して、第一審では200万円の慰謝料が認められ、高等裁判所(以下、「高裁」)も一審の結論を支持しました。しかし、最高裁判所(以下、「最高裁」)は一審、高裁とは異なる判断を示しました。

 

●本件の争点は何か

 

本判決はニュースなどでも話題になっていたので、ご存じの方も多いかと思います。本件では次の二つが争点となりました。

 

① 不貞行為(不法行為)を理由とする損害賠償請求権(慰謝料請求権)の消滅時効は、民法上「損害及び加害者を知ったとき」(民法724条)から3年とされているところ、原告が妻の不貞行為の事実があったことを知ったのは2010年5月であり、時効により請求権が消滅しているのではないか。

 

② 不貞行為を理由とする慰謝料請求権が時効により消滅しているのであれば、(不貞行為自体ではなく)離婚に至ったことを理由として、第三者(不貞相手)に慰謝料を請求できるのか。

裁判のポイント「離婚慰謝料」と「不貞慰謝料」

◆不貞に対する慰謝料と離婚したことに対する慰謝料

 

実は、慰謝料には2種類の慰謝料が存在します。一つ目は「離婚慰謝料」というもので、離婚したこと自体の慰謝料となります。二つ目は「不貞慰謝料」というもので、これは不貞行為という個々の有責行為を根拠とする慰謝料になります。

 

これまで両者の区別はあいまいでしたが、本判決においては、この二つの慰謝料請求権は別の請求権であることが明示されました。

 

本件では、不貞慰謝料は時効により消滅していました(元夫が不貞行為と不貞相手を知ったのが2010年5月なので2013年5月に消滅)。そのため、原告(元夫)側は離婚慰謝料としての請求であるとの主張を行いました。

 

離婚慰謝料の消滅時効の起算点は離婚成立時(2015年2月)であり、訴訟を起こしたのが2015年11月であるため、消滅時効の問題はクリアできますが、配偶者ではない第三者に離婚慰謝料を請求できるかという問題が残ります。

 

これに対して、最高裁は「配偶者ではない第三者である不貞相手は、特段の事情がないかぎりは離婚慰謝料の賠償義務を負わない」と判断しました。

 

◆不倫相手からは不貞慰謝料のみ。離婚慰謝料はとれない

 

少しくわしく見ていきます。

 

最高裁は、「夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが、協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても、離婚による婚姻の解消は、本来、当該夫婦の間で決められるべき事柄である。したがって、夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、ただちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される」と述べます。

 

これは、「離婚するか否かは基本的に夫婦ふたりの問題であり、離婚慰謝料については第三者である不貞相手がただちに責任を負うわけではない」と示しています。

 

ただし、これはあくまで離婚慰謝料の話です。したがって、不貞行為を理由とする不貞慰謝料に関しては当然、不貞相手も責任を負います。一部報道などでは「最高裁不貞相手に対する慰謝料の請求を否定」というように、不貞相手に対する慰謝料請求の一切が認められないという誤解を招くような表現がありましたので、念のため付言します。

 

そして、「第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が、単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときにかぎられるというべきである」として、本件においては特段の事情は認められないため、慰謝料の請求は認められないと判断しました。

 

どのような場合が「不当な干渉」に当たるといえるのかは、今後の裁判例などの集積により具体化されていくと考えられます。

 

本判決において、不貞相手は原則として離婚慰謝料の賠償義務は負わないことが明示されたので、不貞相手に対しては、主に不貞慰謝料を請求することになります。

 

そして、前記のとおり、不貞慰謝料は不貞行為の事実と不貞相手が誰かを知ったときから3年で時効により消滅してしまうので、後悔しないためには、不貞の事実を知ってから3年以内に不貞慰謝料を請求する必要があることを忘れないでください。

 

 

西村隆志

西村隆志法律事務所 弁護士/事業承継士/上級相続診断士

 

本連載で紹介する事例はフィクションです(実際の裁判例は除く)。登場する人物・団体・名称等は架空のものであり、実在の人物のものとは関係ありません。また、本連載は2019年8月5日刊行の書籍『キッチリけりがつく離婚術』(東邦出版)の一部を抜粋・再編集した記事です。最新の法令等には対応していない場合もございますので、予めご了承ください。

財産分与・慰謝料・親権に強い弁護士が明かす キッチリけりがつく離婚術

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