※本連載では、公認会計士・米国公認会計士の資格を持ち、数々の企業でコーポレートファイナンスを通じて新たなスキームを構築してきた株式会社H2オーケストレーターCEO、一般社団法人M&Aテック協会代表理事および公認会計士久禮義継事務所代表である久禮義継氏が、新時代に中小企業が生き残るための経営戦略を提案していきます。

古びた会社はスタートアップ企業に勝てない⁉

今回は前回に引き続き、業歴の長い中小企業にとって切っても切れない課題である事業承継問題について、後継者に向けてのメッセージを簡潔にまとめて送りたいと思います。

 

後述しますがここでのメッセージはグローバルな視点やスタートアップ界隈の動向と絡む話となります。直観的なイメージで恐縮ですが、事業承継の対象企業や取り巻きの専門家の方とは、この辺りの論点では一定の距離感があるかもしれません。これは私のこれまでの経験を生かして違った見方を提示しようと心掛けたともいえます。では、早速本題に入ります。

 

後継者へのメッセージ

先代オーナーの会社をそのまま承継する必要はありません。というより、むしろしない方がいいと思います。いい換えると、これも単純な話です。先代オーナーの立場からいえば「かわいい子には旅をさせろ」ということです。その理由を述べる前にいくつか例示を挙げてどのようなイメージか理解いただければと思います。

 

●既存事業の一部を別会社に分離し(バリューチェーンの一部など)、経営者としての手腕を一定期間磨いてから、先代オーナーの築き上げた事業全体を承継する。

 

●会社の将来を見据えて、後継者自らがイチから新規事業を立ち上げ※1、創業者として事業を育てる楽しさと痛みを自分ごととして経験する。

※1 直接的・間接的に既存事業と関係を有する事業が望ましいでしょう。

 

理由を述べると以下の通りとなります。

 

現代型の競争社会への対応(肌感覚を持つ)

後継者が戦う相手は、近隣の目に見える同業他社と考えるのは非常に短絡的で危険な姿勢です。いまさら陳腐な言葉で恥ずかしいのですが、現在はネット社会です。日本と対極にある国、例えば南アフリカであろうとアルゼンチンであろうと、秒速で情報が飛び交う時代です。通信環境も5G時代に進化することもあり、これからはなおさら国境を越えた競争が激しくなる一方です。

 

また、10年前ぐらいからスタートアップの元気の良さが際立ちます。「スタートアップ」に確定的な定義はありませんが、一般的は次のようなイメージと捉えてもらって間違いないと思います。

 

「創業より日の浅い未公開企業であり、ユニークなテクノロジーや製品・サービス、ビジネスモデルをもち、事業成⻑のための投資を⾏い、事業成⻑拡⼤に取り組んでいる企業。または、これまでの世界(⽣活、社会、経済モデル、テクノロジーなど)を覆し、新たな世界への変⾰にチャレンジする企業」※2

※2 (株)ジャパンベンチャーリサーチによるスタートアップの定義を一部改変。

 

スタートアップは事業承継の対象となる中小企業とは両極にありますが、いずれも中小企業庁が定義する中小企業の範疇に含まれるものです※3。つまり、敵は身近にある旧態依然とした同業他社にとどまらず、世代を超えた競争も激化する一方なのです。

※3 中小企業の正確な定義としては、下記を参照ください。

[図表]出所:中小企業庁 FAQ「中小企業の定義について」
[図表]出所:中小企業庁 FAQ「中小企業の定義について」

 

以上述べた背景を考えると、事業承継により古びた会社(失礼な表現で恐縮ですが)を単に譲り受けるだけでは、そういったマッチョな会社に真っ向から立ち向かい、競争に打ち勝つことは苦難の技でしょう。

後継者は一定の自由度を維持しながら事業運営を行う

ゼロイチ型イノベーションの必要性

先代オーナーの持っている、同じ「箱」からはイノベーションの種が生まれにくいのではないでしょうか。そこにはどうしても甘えが生じがちです。必要な経営資源が揃っているからです。

 

実際起業や新規事業を立ち上げた経験のある方は痛切に理解していると思いますが、引き継いだその時点から経営資源が揃っていて、売上が即座に計上される状況というものは信じられないほど恵まれたものです。それを後継者がしっかり理解しているでしょうか。

 

後継者は「従来の箱の単なるアトツギ」であってはならず、自らを追い込み、「Unlearn(いったんリセット)してゼロからイチを再度作り上げる」ぐらいの気概が必要だと思います。

 

これは副次的な効果ともいえるのですが、できれば、既存の会社内に新たに事業部を設けるなど会社内部に新たな組織を設けるのではなく、別の会社というような建て付けにして先代オーナーから「物理的に一定の距離を置く」形が望ましいでしょう。

 

このような物理的な距離により、後継者は先代オーナーや既存事業の呪縛から逃れて、一定の自由度を維持しながら事業運営を行うことが期待できるからです(先代オーナーの院政も事業承継問題が解決しない理由のひとつといわれています)。

 

ちなみに、本来は先代オーナーへのメッセージになるのですが、後継者が苦難に陥った場合には、必要に応じて先代オーナーから経営資源を調達してもらうなどのサポートを受けても構わないと思います。先代オーナーから突き放されてつぶれてしまったら元も子もないので、それはバランスの問題と考えます。

 

以上、2回に分けて、事業承継問題について思いつくままに筆を進めてみました。事業承継問題がなかなか解決に向かわないのは、形式や既存のルールに囚われてすぎていて、「ココロの部分」の配慮がいささか欠落気味であること。そして、状況に応じた柔軟な対応ができていないことが原因のひとつと思うのです。皆さまはいかがでしょうか?

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