社員が個人の席を持たず、働く席を自由に選べるオフィススタイル、「フリーアドレス」。本記事では、世界最大(2018年の収益に基づく)の事業用不動産サービス会社・シービーアールイー株式会社の「オフィス利用に関するテナント意識調査2018」を一部抜粋し、フリーアドレス導入の現状と、オフィススペースの使い方について紹介します。企業のオフィスに対する考え方の変化は、オフィスオーナーにどのような影響をもたらすでしょうか?

「フリーアドレス」を導入している企業とは?

■導入率がもっとも高いのはIT系企業

業種別でもっともフリーアドレスの導入(予定を含む)率が高いのは「IT」となった。技術革新が著しいなか、社員の業務効率の向上が主な動機とみられる。もっとも導入率が低いのは「金融」の33%。情報管理などのセキュリティ面で懸念があるとみられている可能性がある。フリーアドレス導入テナントを業種別に分類した場合、「IT」が28%ともっとも高い比率となった。

 

[図表1]業種別のフリーアドレス導入(予定を含む)率(出所:CBRE)
[図表1]業種別のフリーアドレス導入(予定を含む)率(出所:CBRE)

 

 

[図表2]フリーアドレス導入テナントの業種分類(出所:CBRE)

[図表2]フリーアドレス導入テナントの業種分類(出所:CBRE)

 

■大型テナントほど導入率が高い

地域別でみると、フリーアドレスの導入(予定を含む)率は東京23区が47%と、地方都市の31%を上回った。これは、地方に比べて東京のほうが使用面積は押しなべて大きいということに起因すると考えられる。一般的に、使用面積が大きいほどフリーアドレス導入のメリットが大きいと考えられているようだ。東京23区についてみても、オフィス使用面積が1,000坪以上のテナントでは、導入率が70%を超える。一方、1,000坪未満のテナントでは、導入率は36%にとどまった。

 

[図表3]フリーアドレス導入(予定を含む)率 東京と地方の比較(出所:CBRE)
[図表3]フリーアドレス導入(予定を含む)率 東京23区と地方の比較(出所:CBRE)

今なぜ「フリーアドレス」なのか?

■生産性や働き方の改善に関連する理由が中心

フリーアドレスを導入(予定を含む)した理由の上位は、生産性向上、フレキシブルな働き方の促進、コラボレーションの促進など、社員の「生産性や働き方」に関連する項目である。また、イノベーションやクリエイティブな社風づくり、コミュニティや企業文化の形成など、「組織のあり方」の改善を意識したとみられる理由も比較的多くみられた。一方で、ランニングコストや設備投資の抑制など、「コストの削減・抑制」に関連した項目を選択した回答者は相対的に少ない。

 

[図表4]フリーアドレスを導入した理由(出所:CBRE)
[図表4]フリーアドレスを導入した理由(出所:CBRE)

 

■フリーアドレスのさらにその先を目指すテナントも

フリーアドレス導入予定のテナントのほうが、すでに導入したテナントに比べ、レイアウト変更の予定ありとした回答は当然ながら多い。とはいえ、フリーアドレス導入済みのテナントでもレイアウト変更ありとした回答は21%にのぼる。その理由としては、「合併などの組織変更や業容拡大に伴う人員増加」がもっとも多いものの、「フリーアドレスなど新しい業務スタイルの導入」という回答も13%となった。これは、ABW(アクティビティ・ベース・ワーキング)*1などのように、基本的なフリーアドレスに比べてさらにフレキシビリティの高いワークプレイスの導入を検討していることが背景と考えられる。CBREがアジア太平洋地域全体(APAC)で行った調査結果*2では、2年後までにABWを導入すると回答したテナントは、現在の約2倍に上る見込みである。

 

*1:ABW(アクティビティベースワーキング):その時々の働き方に合ったスペースを選択できるように、様々なタイプのスペースが用意されているワークプレイス。いわばフリーアドレスオフィスの進化系。

 

*2:ASIA PACIFIC OCCUPIER SURVEY 2018

 

[図表5]フリーアドレス導入による「レイアウト変更」の理由(出所:CBRE)
[図表5]フリーアドレス導入による「レイアウト変更」の理由(出所:CBRE)

オフィスへの考え方は、さらにフレキシブルに

■フリーアドレス導入テナントはBPOを選択している

BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)とは、自社の業務を外部の専門企業に外部委託することを指し、企業は自社のコアビジネスに経営資源を集中させることができる。本アンケート調査結果では、フリーアドレス導入済み(予定を含む)のテナントの70%がBPOを導入しており、導入していないテナントの37%を上回っている。BPOは、オフィススペースを含む経営資源の有効活用が目的とされることが多い。フリーアドレス導入テナントにおいてBPOの導入率が高いことは、フリーアドレス導入の理由として生産性の向上を挙げる企業がもっとも多いこととも符合する。

 

[図表6]BPO導入(予定)率(出所:CBRE)
[図表6]BPO導入(予定)率(出所:CBRE)

 

■フリーアドレス導入テナントはコワーキングスペースなどの利用を前向きに検討

コワーキングスペースやシェアオフィスなど、第三者が運営する共用オフィスの利用も増えつつある。個人やスタートアップのみならず、大企業が検討する事例も散見されている。本アンケート調査結果でも、すでに利用しているか、利用を検討しているという回答結果が多数みられた。

 

フリーアドレス導入(予定を含む)テナントは、導入していないテナントに比べて共用オフィスの利用(あるいはその検討)の比率も高いという結果がみられた。フレキシブルな働き方を促進しようと考える企業が、フリーアドレスの導入や、共用オフィスの利用を検討しているという実態がうかがえる。

 

なおサービスオフィスについては、コワーキングスペースなどの共用オフィスほど利用率が高くないという結果となった。すでに総務機能が充実している一定規模以上のテナントにとっては、サービスオフィスが提供するサービスは、必ずしも必要とされていないことが要因と考えられる。

 

[図表7]外部事業者が運営するオフィスの利用(出所:CBRE)
[図表7]外部事業者が運営するオフィスの利用(出所:CBRE)

 

■フリーアドレス導入テナントは在宅勤務の利用率が高い

在宅勤務(テレワーキング)の普及も徐々に進んでいる。社員にとっては、仕事と育児・介護などとの両立や、通勤時間の短縮などのメリットがある。共用スペースの利用と同じく、在宅勤務の利用率についても、フリーアドレス導入済みテナントでは64%と、フリーアドレスを導入していないと回答したテナントの34%を大きく上回った。

 

この結果は、先述のフリーアドレス導入の理由のうち、「ワークライフバランスやフレキシブルな働き方の促進」を回答者の65%が選択し、トップの「従業員の生産性向上」に次いで多かったということとも符合する。すなわち、ワークライフバランスや働き方のフレキシビリティを志向する企業が、フリーアドレスや、在宅勤務制度を取り入れていることがうかがえる。

 

[図表8]在宅勤務への取り組み(出所:CBRE)
[図表8]在宅勤務への取り組み(出所:CBRE)

 

■ITツールの導入がフリーアドレス導入をさらに後押しするだろう

ITツールの導入率をみてみると、ノートパソコンの使用(予定を含む)率は、フリーアドレス導入(予定を含む)の有無に関わらず、96~97%と高い比率を示している。また、無線LAN/Wi-Fi/Li-Fiの使用(予定を含む)率についても、フリーアドレス導入テナントのほうが、導入していないテナントよりも高かったものの、後者も74%と決して低い水準ではない。

 

フリーアドレスの導入には、そのための環境を整える必要があることはいうまでもない。特に、場所を選ばず仕事をするためには、ノートパソコンのほか、無線LAN/Wi-Fi/Li-Fiやスマートフォンの支給などの通信環境の整備が必須である。その観点からいえば、フリーアドレスを導入していないテナントにおいても、導入のための環境は整っているといえることが、本アンケート調査結果からわかった。

 

[図表9]ITツール導入率(出所:CBRE)
[図表9]ITツール導入率(出所:CBRE)

 

関連記事:オフィス利用に関するテナント意識調査2018​

※調査目的:オフィススペースの有効活用や働き方改革の1つの手段として、「フリーアドレス」を導入する企業が増えてきている。本レポートはCBREが実施している「オフィス利用に関するテナント意識調査」から、フリーアドレス導入の現状と、オフィススペースの使い方について、本社機能が集中する東京23区で分析を行った。回答者属:性日本に拠点を置く外資を含む企業に在籍する、主にオフィス戦略に関わる担当者 調査期間:2017年11月~12月 有効回答数:東京23区168件(全国合計354件)
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