多くの人が望んでいる、自宅での「看取り」。しかし、現在の日本の医療システムでは、なかなか叶えることができません。人生最期の大切な時間を、穏やかに、希望通りに過ごすことはできないのでしょうか。旅立とうとする人と、それを見守る家族のサポートは、医師として大変やりがいのある仕事です。今回は、患者とその家族に寄り添う自宅医療のあり方について考察します。

半数近くの人が「自宅で最期を迎えたい」と望むが…

人が最期を迎える場所は医療や社会の変化とともに変わってきました。図表1で示したとおり、1951年に亡くなった人の8割以上が自宅死でした。2016年になると、この割合は完全に逆転しており、病院で亡くなる人が8割近くを占めています。

 

[図表1]施設死が増え、病院死が減少へ 出典:厚生労働省「人口動態統計」(2016年)を基に作成
[図表1]施設死が増え、病院死が減少へ
出典:厚生労働省「人口動態統計」(2016年)を基に作成

 

これは先進各国の中でも突出して高い割合です。図表2で示したとおり、先進各国の中でも8割程度で推移しているのは日本だけであり、フランスは6割以下、アメリカは4割程度、福祉先進国といわれるオランダに至っては3割以下となっています。

 

[図表2]各国の病因死率の変化 出典:ILC Japan企画運営委員会「理想の看取りと死に関する国際比較研究」より
[図表2]各国の病院死率の変化
出典:ILC Japan企画運営委員会「理想の看取りと死に関する国際比較研究」より

 

一方、「最期を迎える場所」について尋ねたアンケートでは、国内でも半数近くの人が「自宅」と回答しており、「病院などの医療施設」を望む人は3割を下回る少数派です。

 

希望に反して、自宅で最期を迎えられない人が増えてきた背景にはさまざまな事情がありますが、なかでも大きいのが家族の関係や形態の変化です。かつては「サザエさん一家」のような二世帯、三世帯同居が当たり前だったのが、社会の近代化に伴って核家族のほうが多くなり、成人後の親子関係もそのぶん、希薄になってきました。

 

自宅で亡くなるためには終末期にサポートを要するため、家族に負担がかかります。食事や着替え、移動、排泄など、自立できなくなった人を支えるのに要する労力は多大です。家族が医療的なケアをまかなわねばならないケースも少なくありません。胃瘻やストーマ(人工肛門、人工膀ぼう胱こう)の管理、喀痰吸引など、神経を使うケアは多く、適切にできなければ患者の命に関わることもあるため、家族は大きな不安にさらされます。

 

医療的なケアには休みがないという問題もあります。24時間不休で、いつまで続くか分からない苦労と心配を抱え続けるのは、誰にとっても大きな負担です。

 

患者の中にはそのことを理解しているため、「自宅で死を迎えたい」と言い出せない人もいます。配偶者や子供世帯に迷惑をかけたくないと考え、本当は住み慣れた自宅で最期を迎えたいにもかかわらず、その思いを胸に秘めて亡くなる人が少なくないのです。

 

家族の側も、サポートの労苦や急変の不安などを抱えつつ暮らす負担がどれほどのものか、実際に手がけてみないと分かりません。そのため、生真面目な人ほど心配して「なるべく病院で」と考える傾向があります。

 

親しい関係を維持できていれば、「しんどくなったら病院に入れてくれたらいいから」と患者側から申し出たり、「やってみるけど、手に余ると感じたら入院してもらうよ」と家族が覚悟を求めたりするなど、お互いが思っていることを率直にぶつけ合えます。ところが家族であっても、心理的な距離が遠く遠慮があると、お互いに忖度し合うことになるため、過半数の人が在宅死を望みながら5人に4人が病院で亡くなるという矛盾が生じているのです。

 

そんな現状を変えるためには、患者・家族双方の心配を取り除いて支援する仕組みの提供が欠かせません。すなわち在宅医療の普及こそ、在宅死を実現するカギだと私は考えています。

「在宅の看取り」を手がける診療所・病院は少ない

病院での診療やクリニックでの外来診療など、医師の仕事にはさまざまなシーンがありますが、なかでも在宅での看取りは医師としてのやりがいを強く感じる仕事の一つです。もちろん、大きな苦しみや悲しみを抱える患者や家族への対応には細心の気配りが求められますし、最期に訪れるのはハッピーエンドだけではありません。

 

しかしながら、担当した患者が尊厳を保ち心穏やかに生涯を閉じることができたときには、医師としての存在意義を感じることができます。看取りには、医師としての診療技術に加え、多職種との複雑な連携や患者、家族への寄り添いなど、総合的な人間力も含めた「医師力」が求められるからです。町のお医者さんとして、日々研鑽を重ねてきたことが厳正に評価されるのが、在宅での看取りだと私は感じています。

 

残された家族との関係においても、自身の「医師力」に対する評価を認識できることもあります。「先生に看取ってもらえてよかった」と言ってもらえると、医師冥利に尽きますし、看取りの後も変わらず家族が受診してくれるのも嬉しい評価です。

 

人には悲しみや不幸の記憶に結びつくものや場所を避ける傾向があります。ですから、家族の最期を看取った医師に対しては、悲しみが癒えるまであまり会いたくない方もいるでしょう。ところが、私が看取った患者の家族の多くは、その直後でさえも変わらず来院してくれます。

 

そんなやりがいの大きな在宅の看取りですが、手がける診療所や病院はあまり多くありません。2014年時点で診療所は4312件、病院は476件にとどまります。それぞれ、診療所全体の4.7%、病院全体の5.6%という少なさです(厚生労働省「医療施設調査」より)。

 

国内では年間130万人余りが亡くなっています。在宅死を希望する人の割合は55%程度なので、71.5万人の希望者がいることになります。在宅での看取りを行う診療所や病院の数で割ると、一施設当たり150件もの看取りを手がけねばなりません。もちろん、到底対応できない件数であり、患者や家族が望んでも、在宅死は難しいのが現状なのです。

 

この状況は現在における在宅死の状況からも伺えます。在宅診療を手がける医療機関は地域によってバラつきがあるため、それにより在宅死者の数には地域差があります。人口当たりの割合を比較すると、もっとも多い市区町村ともっとも少ない市区町村では約3倍もの開きが見られるのです。

 

ただし多い地域でも2割強なので、在宅医療を手がける診療所や病院は、全国的にまったく足りていないと言えます。

患者・家族の幸せが、医師にとっての「幸せ」

在宅医療はこれまで語ってきたとおり、まだまだ未開の分野であり、手がける医師もまったく足りていません。大きなニーズがあると私は考えていますが、誰もが手がけられるわけではありません。手先が極端に不器用だと外科医には不向きであるように、人間関係がうまく構築できない人は在宅医療には適しません。

 

その理由は大きく分けて二つあります。一つはやはり、患者や家族との信頼関係が築けないことです。在宅医療は外来診療が不可能になった患者が受ける医療です。患者の暮らしは単独では成り立っていないため、多くの場合、診療には家族が同席します。

 

家族とはいえ、考えていることは同じではありません。患者と家族、家族同士でもそれぞれ考え方や悩んでいること、心配していることは異なります。そのため、彼らの問題を軽減するためには、それぞれの悩みや不満、心配事などを聞き取って、時にはアドバイスし、時にはちょうど良い落としどころを一緒に探すことが求められます。

 

彼らが一緒になって病気と向き合う状況を作り出すのも医師の大切な役目であり、それができて初めて、患者と家族から信頼を得て、彼らを幸せにすることができます。

 

私にとって患者や家族の幸せが訪問診療を行う上での目標であり、彼らを幸せにできることが医師にとっての幸せだと感じています。多くの医師も同じだと思いますが、もしも、病気の治療以外は面倒だと感じるのであれば、在宅医療には不向きです。

 

患者や家族との関係以外にもう一つ、在宅医療を手がける医師に求められるのが他職種との連携です。他職種との連携において上下関係はありませんが、立場的に医師が主導することが多いため、リーダーシップを発揮できる人が在宅医療には向いています。ただし、医師が触れる世界は狭く、育成過程においても密に接触する人の大半は医療関係者に限られます。

 

在宅医療に関わる他職種の人たちは、年齢や性別、知識や考え方も多様です。社会経験の少ない医師が、彼らと適切に連携するのは容易ではありません。高いコミュニケーション能力が求められることを意識し、日頃からなるべく多くの人と接するなどの努力を重ねたいところです。

 

 

嶋田 一郎

嶋田クリニック院長

 

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嶋田 一郎

幻冬舎メディアコンサルティング

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