本連載では、円満相続税理士法人の橘慶太税理士が、専門語ばかりで難解な相続を、図表や動画を用いてわかりやすく解説していきます。今回は「遺留分」について説明していきます。

残された家族の生活を保障する「遺留分」

遺言書を残すなら、必ず知っておかなければいけない遺留分(いりゅうぶん)というルールがあります。現在、遺産相続をめぐる争いのほとんどは、この遺留分に纏わる争いといっても過言ではありません。遺留分という考え方を知らないまま、遺言書を作ったり、生前贈与を始めたりするのは非常に危険です。後々に残された家族が泥沼の争いに突入してしまう可能性が非常に高くなります。

 

■遺産の分け方の大前提

人が亡くなった場合には、その人の遺産は相続人が相続します。相続人が複数いる場合には、誰がどの遺産をどれくらい相続するのかを決めなければいけませんが、遺産の分け方にはルールが存在します。そのルールは、遺言書がある場合と、遺言書がない場合とで大きく異なります。まず、遺言書がある場合には、原則として、その遺言書の通りに遺産を分けていくことになります。

 

一方で、遺言書がない場合には、相続人全員での話し合いによって、遺産の分け方を決めていきます。この話し合いのことを、「遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)」といいます。もし遺産分割協議に折り合いがつかない場合には、折り合いがつくまで永久に話し合わなければいけません。話し合いでは決着がつかない場合には、家庭裁判所で裁判を行い、最終的に分け方を決めていきます。

 

[図表1]遺言書の有無で分かれる遺産相続
[図表1]遺言書の有無で分かれる遺産相続

 

ここで話は少し横道にそれますが、遺言書にまつわるちょっとした○×クイズを出します。

 

【問題】

とあるお父さんが遺言書を残してお亡くなりになりました。残された家族全員で遺言書を見てみると、家族全員で同じことを感じました。

 

「お父さん。せっかく遺言書を残してくれたのはありがたいんだけど…。これ、もうちょっと違う分け方に変えることはできないかしら!」

 

ここで問題です。相続人全員が同意した場合、遺言書に書かれた分け方を変更することができる。〇か×か。

 

正解は「〇」です。相続人全員が同意をした場合、遺言書の内容は変更することが可能です。遺産の分け方次第で相続税は何千万円と変わることがあります。亡くなる人の気持ちだけで遺言書を作成してしまうと、残された家族に非常に重い相続税が課税されてしまうことがあるので、事前に相続税の観点からもチェックを入れていただくことをおすすめします。

 

ここで重要なのは、相続人全員が同意をすれば内容を変更できるということは、裏を返すと、一人でも「私は遺言書の通りに遺産を分けたい」という人がいる場合には、遺言書の内容が優先されるということです。

 

やはり遺言書の効力って大きいですよね。

 

■遺留分(いりゅうぶん)とは?

それではここからが本題です。遺留分について、事例を使って解説していきます。

 

たとえば、ここに夫、妻、子ども2人のご家族がいたとします。この度、夫に相続が発生してしまいました。悲しみに暮れるなか、ご主人の遺品を整理していると、金庫のなかから遺言書がでてきました。家族全員で、その遺言書を開けてみると、なかにはとんでもない内容が書かれていました。

 

 [図表2]愛人に「すべての財産を残します」という遺言だったら…

[図表2]愛人に「すべての財産を残します」という遺言だったら…

 

遺言書の中身には、なんと「私の財産はすべて愛人に残します」と書いてありました。こういった遺言書があった場合、ご主人の財産はすべて愛人のもとに渡ってしまうでしょうか?

 

渡ってしまったら困りますよね。残された家族(特に奥様)は生活できなくなってしまいます。そうなのです。こういったシチュエーションででてくるのが、遺留分なのです。

 

遺留分はひと言でいうと、残された家族の生活を保障するために、最低限の金額は相続できる権利のことをいいます。ここでのポイントは、あくまで遺留分は権利であるということです。もし、遺言書に「あなたに遺産はまったくあげません」と書かれていたとしても、当の本人が、「それでも構わないですよ」ということであれば問題ありません。あくまで権利なので、権利を行使するかどうかは本人の自由です。

 

しかし、「遺産がもらえないなんて困る!」という場合には、愛人に対して「遺留分までの遺産は返せ!」といえば、愛人はその人たちに対して、遺産を返さなければいけないことになります。

 

[図表3]遺言があっても遺留分が侵害されていたら主張できる
[図表3]遺言があっても遺留分が侵害されていたら主張できる

「法定相続分の半分」が遺留分として主張できる権利

■遺留分はどのくらい認められているのか?

続いて、遺留分は実際にどれくらいの金額が保障されているのか、解説していきます。まずは、下の図をご覧ください。

 

[図表4]法定相続の割合
[図表4]法定相続の割合

 

ここに書いてある割合は、遺留分の割合ではありません。「法定相続分」という割合を書いていきました。この法定相続分という割合は、遺産の分け方の目安として法律で定めているもので、「この通り分けなくてはいけませんよ」という割合ではありません。あくまで目安として設けられたものです。

 

では、遺留分はどのくらいかというと答えは次の通りです。

 

[図表5]遺留分で保証される金額の割合
[図表5]遺留分で保証される金額の割合

 

ずばり法定相続分の半分です。つまり、こちらの奥様は4分の1、子どもたちはそれぞれ8分の1ずつということになります。

 

相続が発生し、遺言書の中身を見てみたら、「私、4分の1もないじゃない!」「俺たち、8分の1もないぞ!」(この状態のことを「遺留分が侵害されている」といいます)ということになれば、愛人に対して、その金額に達するまでの遺産を取り返すことができるというわけです。

 

実際にこのようなケースが発生した場合には、間に弁護士を入れることが一般的です。そしてその弁護士が話をまとめながら、遺留分に達するまでの遺産の受け渡しなどを行います (この手続きを、「遺留分の減殺請求(げんさいせいきゅう)」といいます) 。

 

また、この遺留分という最低保障されている権利には、有効期限が存在します。遺留分が侵害されていることを知った日から1年です。1年を過ぎてしまうと有効期限を過ぎてしまうため、遺留分の減殺請求ができなくなってしまうので、早めに手続きをするようにしましょう。

 

※法定相続人が父母だけの場合等には法定相続分の3分の1が遺留分の割合となります。

 

■実際には兄弟姉妹の間で遺留分の侵害が起こりやすい

先ほどの事例では、「愛人にすべての遺産を渡しますよ」という非常に極端な事例を紹介しましたが、実際には、兄弟姉妹の間で遺留分の侵害が発生するケースが最も多いです。

 

たとえば、不動産はすべて長男、残りの遺産は長女に相続させようと遺言書を作った場合には、遺産のなかに不動産が占める割合が大きければ、簡単に長女の遺留分を侵害してしまいます。

 

また、会社オーナーにおいても同じ問題が発生します。会社の株式は後継者である長男に、残りの財産は長女に残そうとすると、その会社の株式の評価額が大きければ、長女の遺留分を簡単に侵害してしまうのです。

 

また、これは見落としがちな論点ですが、遺留分の割合は相続が発生する順番によって変化します。たとえば、父が先に亡くなり、母が後に亡くなった場合。父が亡くなった時の子どもの遺留分は8分の1です。

 

[図表6]両親のうち父が先に亡くなった場合の子どもの遺留分
[図表6]両親のうち父が先に亡くなった場合の子どもの遺留分

 

しかし、母が先に亡くなり、父が後に亡くなった場合には、父が亡くなった時の子どもの遺留分は4分の1になります。

 

[図表7]両親のうち母が先に亡くなった場合の子どもの遺留分
[図表7]両親のうち母が先に亡くなった場合の子どもの遺留分

 

遺留分の金額が2倍も変わるのです。平均余命から考えると男性から先に亡くなる可能性が高いのですが、こればかりは誰にもわからないことです。遺留分の対策をするのであれば、あらゆる可能性を考えて対策をしなければいけないのです。

 

 

■遺留分を計算する際の「時価」の考え方に注意

遺留分の割合については、もう理解できたかと思いますが、そもそも遺留分の計算をする時の、遺産の金額の考え方に注意が必要です。この遺産の金額は、相続が発生した時の時価とされています。

 

ここで注意をしなければいけないのが、不動産の時価の考え方です。相続税を計算する際に使う不動産の評価額は、相続税評価額というものを採用します。一方で、遺留分を計算する際に使う不動産の評価額は、実際の売買価格を基準とします。不動産の相続税評価額は、実際に売買される価格よりも低くつけられています。実際に1億円で売買されているような土地であれば、相続税評価額は8000万円前後になります。相続税評価額は実際の売買価格の80%前後になるように設定されているのです。

 

遺留分を計算する際には、相続税評価額ではなく、実際の売買価格を基準とするので、相続税評価額ベースでは遺留分を侵害していなくても、実際の売買価格ベースにすると遺留分を侵害しているケースもあるので、この点については特に要注意です。

 

[図表8]相続の際には不動産価格に注意
[図表8]相続の際には不動産価格に注意

 

■子どものいない人の遺留分

たとえば子どものいない夫婦がいたとします。もしこの夫が亡くなってしまった場合、相続人は誰になるでしょうか?

 

答えは、妻と、夫の姉や甥、姪が相続人となります。

 

[図表9]子どものいない夫婦の相続は?
[図表9]子どものいない夫婦の相続は?

 

もし遺言書がない場合には、この奥様とご主人の兄弟姉妹との間で遺産の取り分について話し合いをしなければいけません。

 

想像してみてください。今この記事を読んでいるあなたの奥様ないし旦那様と、あなたの兄弟姉妹たちが話し合いをする姿を。なかなか大変そうじゃないですか? 実際、このケースは凄く大変です。そもそもあまり付き合いがないケースがほとんどですから。特に甥や姪の代までいくと、ほぼ面識がない場合もあります。

 

このような事態を避けるために、このご主人が「私の財産はすべて妻に残します」という遺言書を残しておけばどうでしょうか?

 

[図表10]財産をすべて妻に残すと遺言書を書いたら…
[図表10]財産をすべて妻に残すと遺言書を書いたら…

 

姉や甥、姪からすれば「俺たちも相続人なんだから、遺留分くれー」といいたくなるかもしれません。

 

[図表11]妻に財産を残すと遺言書を書いたら甥が遺留分を主張してきた!?
[図表11]妻に財産を残すと遺言書を書いたら甥が遺留分を主張してきた!?

 

しかし、ここでちょっと考えてほしいのです。そもそも遺留分と言う制度は、どのような趣旨で創られたものでしょうか? 遺留分という制度は、亡くなった人の家族が、今後の生活に困らないようにするために、必要最低限の金額は相続できるようにするために創られた制度です。

 

それを踏まえて、もう一度考えていただきたいのですが、もし、このご主人の遺産が、姉や甥姪に渡らないと、この姉や甥姪は生活に困るでしょうか?

 

困らないですよね。

 

なぜなら、一般的に、ある程度の年齢になれば、兄弟姉妹は別々の生活をはじめます。すでにそれぞれの生活の基盤ができているはずなのです。そのことから、兄弟姉妹の間で遺産が相続できなくても、その人たちは今後の生活に困らないと考えられています。そのような趣旨から、兄弟姉妹(甥姪も)には遺留分がありません。つまり最低保障されていないのです。

 

「兄弟姉妹には遺留分がない」ということは、相続対策をするうえで非常に重要なポイントです。子どものいない夫婦が「私の財産はすべて妻(または夫)に残します」という遺言書を残した場合、兄弟姉妹たちは「私たちも相続人なのだから、少しは財産をよこせー」とはいえないのです。遺留分ないですから。つまり、遺留分を気にせず好きな遺言書を残すことができるのです。

 

これがもし遺言書がなかった場合には、相続人全員で話し合わないと遺産を分けることはできません。預金口座の名義変更すらままならなくなります。子どものいない人にとっては、遺言書があるかないかで、残された人の労力は何百倍も変わるので、今この記事を読んでいるあなたがそうでなくても、周りに子どものいない夫婦がいれば、ぜひともこの記事をシェアしてあげてください。

 

 まとめ 

遺留分という考え方は遺言書を作った時にしかでてきません。争いを防ぐために遺言書を作るのですが、残念なことに、遺留分を侵害している遺言書を作ってしまえば、それが原因で争いに発展します。

 

不動産や会社の株式など、時価の把握が難しい財産を持っている方は、遺言書を作る際に、税理士などの監修のもとで作ることをおすすめします。

 

【動画/筆者が「遺留分の基本」を分かりやすく解説】

 

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