今回は、クリニックにおける書類作成業務・チェック業務の大変さを見ていきます。※本連載は、中内眼科クリニック院長・中内一揚氏の著書である『つぶれないクリニック』(兵田印刷工芸 出版部)より一部を抜粋し、開業医をめざす医師に向けて実践的な経営方法や体験談を紹介します。

医師が書くべき書類は大量にあるが…

開業しても、生活保護、身体障害認定、高齢者のワクチン接種、労災、生命保険申請書など、医師が書かないといけない書類はたくさんあります。大学と違って、医療秘書にお任せという医院は少ないでしょう。書類記入のスキルを持つ受付さんを育てるのは大変です。書類自体は院長が記載するとしても、集めて郵送したり、書き方を役所に電話で問い合わせたりするのは、任せても構いません。何事も役割分担です。

 

では、特に多い書類についてふれておきます。

 

例えば生活保護受給者の医療券は、医院にかかった月は、役所の方からクリニックに毎月送られてきます。それを集めて、レセプト申請時に国民保険事務局に提出することになります。また、半年に一回くらいで医療費要否疑義の意見書を記入する必要があります。やや余裕を持って送られてきますので、継続的に来院する人は書いておいて、それ以外の人は来院を確認してからの提出でも良いでしょう。

 

次に身体障害の認定医を取られている先生のところには、それにあてはまる障害をお持ちの患者さんが一〜数年に一度、障害年金や障害者手帳認定の更新に来られます。こちらの書類は結構ギリギリに来て、検査結果と合わせて提出になるので忙しいです。

 

冬場のインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンなど、最近はワクチン接種が大流行りですが、自治体によっては65歳以上に補助金が出ます。しかし書類を提出し忘れるともらえません(近隣市に越境して受ける場合は、事前に本人が役所に申請しないといけないことが多いので要注意)。

 

労働災害保険(労災)は扱っている医院だけですが、これが一番ややこしいと思います。流れを書いてみましょう。労災対象の患者さんは外傷などが多いため、その足で病院に行き、まず健康保険で診察を受けます。その後、職場に行って、出勤途中に転んだなどの理由を説明して労災と判断された場合、会社が労災の書類を作成し、本人を通じて医院に提出します。医院は初回の診察費を返金し、書類(パターンが色々あってややこしい)を書いて、会社からの書類と共に労災組合に申請し直します。もちろん、最初から労災扱いでと言ってきた場合は、書類があれば無料でも良いですが、書類がない場合は、返金をする予定で、預り金をもらっておいたほうが良いと考えます(労災認定が出なかったということもあります)。

 

なお、労災の診療費は、書類記入手当なのでしょうか、通常の1.2倍くらい出ます。

受付の負担が重い、レジ締め・シュライバー・レセプト

受付さんは新規で雇っても、半年も経てば慣れて親しくなり、だんだん何でも任せられるようになります。それまではつらかったり、よかったり(つら・いい)の繰り返しです。特にレセプトコンピュータのことは、だいたいお任せできるようになってきます、というか、なってもらわないと困ります。しかし、中にはハードルが高い物もあります。主な業務をいくつかご紹介します。

 

(1)レジ締めはつらいよ

 

診察が終了したら、毎日、レセコンから出る自動の日計表と、レジの中の金額を確かめて、レジを締めるという作業をしなければいけません。当院では、閉院間際レジの中の小銭をマネーカウンターという機械で自動で数えます。少し音がやかましいですが、人間よりは早くて正確です。締めは合えば10分で終わりますが、合わなければ30~40分は無駄になります。何が難しいのでしょうか。

 

診療報酬は保険点数が決まっています。いつも同じ検査しかしない患者さんの場合は、再診料と検査料、診察時に発生する手技料で一定です。変わるとしたら、検査を省略したり薬を出したり処置をした場合です。手計算の時代はよくここでミスが生じました。しかし今は違います。

 

支払時保険の負担割合で患者さんからいただく金額は変わります。後期高齢者かどうかだけでなく、所得によっても負担が違うので要注意。ただし、一度入れ込むと限度額申請がある人以外は計算通りもらうだけです。母子保険は限度額のパターンが多くて一番面倒です。このあたりもレセコンを使えば間違えようがないはずですが、最初はなかなかぴったり合いません。

 

一番多いミスは、釣銭間違いです。例えば2780円の場合に3000円を出されると、レジ上はお釣り220円となりますが、1万円を出されると釣銭を間違うことがあります。渡したお釣りが少なければ次回返金ということになりますが、多いときには返してとは言いにくいですし、そもそも、その間違いが起こったことがお互いに分からないまま進行していることがほとんどです。お釣りのミスは気を付けてねと、声をかけて正確さを上げてもらうしかありません。

 

時に2~3千円単位で大きく合わないことがあります。一番の原因は、医院で扱う自費物品です。サプリメントや術後テープ、保護メガネなどの医療材料が自費になります。これらは、いちいちレセコンに項目を作って入れ込んでいたら煩雑になるので、手書き伝票で処理するのですが、レジのお金を診療費以外に増やしている原因になります。レジを別にするのが理想的ですが、普通はスペースの問題で一台しか置けないでしょう。レジからはレシートが出ているので、それをあとで見直すことも有効です(医院の場合、別に領収書がでるのでレシートは普通渡さない)。

 

次に、前回の保険証忘れ等で、自費から保険の清算に来た人が、当日の受診分として紛れてしまうレセコン上のミスがあります。これは意外と発見しにくいのです。どこで間違えたのか分からないのが一番やっかいなので、多少面倒でも手書き日計表を作るのがお勧めです。アナログですが、1番~50番くらいまで印刷してある罫線表を用意して、入金はいくら、お釣りはいくらと書いていくだけです。ほとんどのミスはこの三点セット(診察患者一覧と自動日計表と手書き日計表)の突合せで判明します。当院ではこの方法により、不明金の発生は月1回程度になりました。

 

(2)シュライバー道はつらいよ

 

「前を向いて診察をさせて下さい」。シュライバーを始めた頃の受付さんによくかける言葉です。

 

シュライバーとは、医師の横で、診察内容に沿った診察料や処置料を打ち込み、医師の指示のもと投薬を確定し、次回の外来予約を取るといった仕事です。手術承諾書や紹介状などの入力も行います。いわば外来の縁の下の力持ち的な仕事です。しかし、「入力方法が分からない」+「送信前に確認をしてほしい」のダブルで医師にお伺いが立てられると、診察をするどころではなく、シュライバーのお守りという感じになってしまいます。そこで、我慢の挙句に出るのが冒頭の発言です。医師としては、診察に集中したい、患者さんとのコミュニケートを大事にしたいので、シュライバーは安心して後ろを任せておけるような存在になってほしいのです。

 

なお当院では、受付業に3ヶ月入ってからシュライバーデビューさせています。例えるならシュライバーはバスのドライバーで、医師は患者さんという来訪者に観光案内をしているバスガイドというような気持ちで仕事がしたいのです。「左に見えますのは~」と言えば、自然にドライバーは速度を落として、左側車線を走ったりできる、そんなことが当たり前にできる技量が希望です。慣れてくると、二人でドライブしているような、そんな平和な気分で外来をすることができます。

 

(3)レセプトはつらいよ

 

月に一度、襲ってくる荒波です。レセプトとは、診療行為にかかった費用の明細書で、病名などが載った定められた形式の書類のことです(カルテとは別物です)。医院が給料をもらうためには毎月、月末締めでその月の診療報酬を確定し、その翌月の5~10日の間に国民健康保険(国保)と社会健康保険(社保)に請求しないといけません。そのための病名チェックと提出データ作製に2、3日かかります。詳しくみてみましょう。

 

●レセプトチェックのやり方

 

週一回くらい、暇な時間帯にレセプトコンピュータでチェックをかけます。保険番号漏れや入力間違いなどが分かる「保険チェック」と、「病名チェック」に分かれていることが多いです。通常、「保険チェック」は受付さん、「病名チェック」は医師が担当します。レセプトにミスがあった場合、国保や社保など保険者(ほけんじゃと読む)は、切り捨てましたと2ヶ月後に通知を送ってきます。切り捨てゴメンです。いくらきっちり診療をしても、病名がないと処置料・処方料没収となってしまうのです。そうならないためにも、レセプトチェックをきっちりとして、診療内容の請求分はできるだけ報酬として受け取るための努力が必要です。

 

ここで問題が。病名のチェックをかけられるスタッフを育てるのに、どれほどの時間がかかるでしょうか。ミスなくやろうとすると、非常に高いレベルが要求されます。結局は、院長が月初の週末に一人で缶詰めになってチェックするという構図ができあがるわけです。医院が流行れば流行るほど、レセプト枚数は増えます。あ~院長はつらいよ。

 

[図表] イラスト:竹田明日香
イラスト:竹田明日香

 

●レセプト請求のやり方

 

レセプト請求には慣れたスタッフが必要ですので、担当を作りましょう。一日目に先月分のカルテチェックをし、保険証の入力ミスなどを訂正する。二日目に請求データを作りあげて送信する。たいがい、一、二件ミスがあり、送信後に発覚するので、三日目に新しくした完成版データを送信して終了。いつも、毎月の5日~10日の間に行うべき作業ですが、祝日や担当者の出勤日などの関係上、ギリギリになっているように感じます。これができて、初めて医院の一ヶ月は終わりとなります。

 

データの送信についてもふれておきます。電子カルテを使っている医院では、たいがいは光回線のネットで繋がっているはずです。紙カルテの医院では、まだISDN回線などかもしれません。どちらにしろ、レセプトデータの提出は、CD−Rかオンラインで行うことになっています。ややこしいのは、どこのネット回線でも保険請求ができるわけではなくて、IPsecという保護システムを介さないと請求できない回線があります。当院ではEo光回線に、FujitsuのIPsecを契約しています(2019年現在)。送信できない場合に原因を突き止めるのに時間がかかることがあるので、何か不具合が起こったときに急遽CD−Rでの提出に切り替えて行う訓練なども必要かと思います。

 

 

中内 一揚

中内眼科クリニック 院長

 

つぶれないクリニック

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中内 一揚

兵田印刷工芸 出版部

大学附属病院勤務から開業に成功した医師が実践してきた「クリニック運営のコツ」が満載! オンリーワンの医院になる方法/患者に信頼されるコツ/スタッフのやる気を引き出す/セーフティネットをはろう… 病院経営をス…

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