争いが絶えないことから「争族」と揶揄される「相続問題」。当事者にならぬよう、相続対策は万全にしておく必要があります。本連載では、一般社団法人日本相続戦略アドバイザリー協会の代表理事である牛田雅志税理士が実際に目にしたという「争族」のエピソードから、相続トラブル解決のヒントを探っていきます。今回は、遺言書の瑕疵によって起きた相続トラブルを見ていきましょう。

公正証書遺言の作成件数は、年間10万件程度

「終活」や「エンディングノート」など、人生の最後を見据えながら自分らしく生きるライフスタイルが定着してきました。

 

ただ、遺言書の作成はまだまだ敷居が高いようで、公正証書遺言でさえ年間10万件と、年間死亡者数130万人からみればごく僅かな件数しかありません。

 

人生最後の指図書ともいえる遺言書が定着していないのは大変残念ですが、形式や文言の不備で無効になることもあり、ためらう気持ちもよくわかかります。

 

ただ、公正証書遺言であれば適切な遺言書が作成できるので安心して取り組めます。

 

ちなみに筆者も50才のときに公正証書遺言を作りましたが、公証人はとても親身で、様々なアドバイスを提示してくれました。もちろん、コストはかかりますが満足のいく遺言書が作れます。

 

そこで今回は遺言書にまつわる話をご紹介いたします。

 

完璧な遺言書を作ったはずなのに、結果として家族に不幸を招いた悲劇のお話です。この遺言書がなぜ悲劇をもたらしたのかを紐解くと共に、最適な遺言書はどうあるべきかについても考えていきます。

用意周到に準備した「遺言書」がトラブルの発端に

浅草で小売業を経営する幸田さん(仮名)は、配偶者とお子さん3人(長男・次男・長女)の5人家族です。子供たちは幸田さんの経営する会社で一緒に働いています。

 

事業は順調ですが、好業績ゆえ自社株評価の高さが悩みの種です。

 

そんななか、配偶者がお亡くなりになりました。この相続時に、幸田さんは子供たちを前に次のような話をしました。

 

「お母さんの遺した財産は、次男と長女ですべて相続して欲しい。私と長男は何も相続しない。ただ、その代わり私の相続時には、会社の全株式を長男に相続させることを納得して欲しい」

 

自社株式の相続で子供たちが揉めないようにとの配慮です。

 

幸田さんは続けます。

 

「それを確実にするため、自社株式をすべて長男に相続させることを遺言書に書いておく。長男を筆頭にみんなで協力して家業をもり立てて欲しい」

 

長男、次男、長女は納得し、家族全員で力を合わせて家業を発展させることを誓いました。

 

そして、その20年後、幸田さんが亡くなります。

 

相続人全員で遺言書の内容を確認します。そこには、生前の発言通り「自社株の全部を長男に相続させる」と適切に記載されています。

 

しかし、なぜか遺言書通りの遺産分割手続きは進められませんでした。実は、完璧に思えた遺言書にはたった一つの瑕疵があったのです。

 

その瑕疵とは…

 

長男はすでに亡くなっていたのです。

 

相続させたい相続人が遺言者より先に亡くなっていた場合、その遺言書の効力は失われます。そのことを知った相続人である次男と長女は、長男の子供たち(代襲相続人)に対して次のように伝えました。

 

「遺言書が適正なら私たちも従うが、無効になったのだから法定相続分として自社株を3分の1ずつ要求する」

 

これに対し長男の子供たちは、

 

「生前の祖父の意思は長男である父に全部を譲ることです。皆さんもそれで納得していたでしょ? それに祖母の相続時に父は何も相続していないじゃないですか。不公平ではありませんか」

 

しかし、次男、長女は法律を盾に一歩も譲りません。

 

長男の子供たちは「法的に効力がないといっても祖父の意思は尊重すべきものであり長男の子供である私達に全部の株式を譲るべきだ」と再三主張しましたが、両者譲らず争いは裁判所に舞台を移します。

 

長い訴訟のあと、次男・長女の相続した自社株式を長男の子供たちが買い取ることで決着しました。ただ、長男家族と次男・長女は断絶し、さらに次男と長女は会社も離れることになりました。

 

遺された家族が揉めないようにと作成した遺言書でしたが、結果的に幸田さんの家族はバラバラになったのです。

 

 まとめ 

 

では、なぜ幸田さんの想いは叶えられなかったのでしょうか?

 

遺言書の作成は相続争いの種を取り除くための最適な手続きでした。ただ、不備な点も2つありました。

 

1つ目は、遺言書作成後のメンテナンスがなかったことです。

 

遺言書は作成しただけで大丈夫というわけではありません。家族の状況や財産の変化に合わせアップデートする必要があります。

 

2つ目は、予防的な内容がなかったことです。

 

まさかの状況も考慮し、「長男に相続させる」の文言に「長男が自分より先に亡くなったときは、孫に相続させる」といった予備的内容を追加する必要があります。

 

遺言書にはこのような盲点や落とし穴があることを念頭に、公証人や専門家のアドバイスを受けることが肝心です。

 

想いの込めた遺言書が無駄にならないよう、適切な遺言書で遺された家族を幸せに導いてください。

 

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