昨年来、欧米先進国に成り代わり、国際舞台で自由貿易や経済のグローバル化を強調してきた中国だが、その一方で、国内では党内の対立が憶測され、孤立路線を主張する声も少なからず存在する。本稿では、中国の現状を踏まえながら、日米欧がとるべき対応について考察する。

党内には「孤立路線」を主張する声も存在

 

これまで自由貿易や経済のグローバル化を主張するのは米国を中心とする欧米先進国だったが、昨年来、米中貿易戦争の下、これらを国際舞台で強調する主役が中国という、考えてみればやや奇妙な状況が続いている。

 

他方で中国内では、昨年8月の党幹部と長老が集まる北戴河会議、秋になっても開催されなかった第4回党中央委員会全体会議(四中全会)などを巡り、党内の対立が憶測されている(参考:『習主席の求心力が低下?「四中全会」で憶測される中国内部事情』2019年2月14日)。

 

昨年は鄧小平改革開放40周年にあたる年だったが、12月に開催された祝賀大会での習演説は改革への言及が抑え目で、過去40年の目覚ましい経済発展はあらゆる分野での党の指導がもたらしたものとし、「変える(改)べきもの、変えることができるものは必ず変え、変えるべきでないもの、変えることができないものは決して変えない」と発言したことが注目された。

 

 

覇権外交、党の管理強化、毛沢東時代を彷彿させる「自力更生」で対米貿易戦争を処理しようとする習氏に対し、鄧路線の継続、民営企業を重視して党の管理を弱めること、外交面では以前の目立たない「韬光養晦(タオグアンヤンフイ)」政策に戻るべきとの意見が対立しているという。

 

貿易や外国投資で潤う個人や企業、自由や民主主義といった価値を重視するリベラル派学者、さらには党内でも、改革を継続して対外開放を進めることが中国の利益になるとする声はなお大きい。他方、国際的に孤立を強めても、

 

①貿易依存度が一時より低く、自国内でサプライチェーンを完結できる

 

②成長がサービス業、国内消費に大きく依存し、生産、需要何れの面でも、以前より外的要因に左右され難い構造になっている

 

③国内の政治安定や一部既得権益層の利益を損なうリスクを軽減できる

 

④党はかつて国際的孤立を経験した実績があるという自信

 

から、党内に孤立路線を主張する声も少なからずあり、輸入増で打撃を受ける一部農民もこれを支持しているようだ。中国が国際的孤立を強める方向に逆戻りする恐れがないわけではない。

かなりの発展途上国が孤立した中国側に付く?

仮にそうなった場合、発展途上国を中心に、国際社会の様々な場面で中国側に付く国が少なからず出現することが予想される。世界2位の経済大国を築いた中国の経済運営は、

 

①人々の生活水準向上、貧困撲滅が結局社会の安定に繋がる

 

②欧米の民主主義的プロセスは意思決定と政策発動に時間と手間がかかり、経済停滞を招く一因になっているのに対し、集権的な体制は迅速な決断と政策の実行という点で効率的

 

③インフラ投資が高成長をもたらし、インフラ整備が極めて重要であることを示した

 

という点で、多くの途上国がその成長モデルを評価しているためだ。孤立した中国は欧米にとって脅威でなくなるという見方もあり得るが、欧米と中国を中心とするかなりの途上国が国際社会で対峙する構造は水面下で政治的緊張を高め、世界経済にとっても結局損失だ。日米欧は中国に対し主張すべきことは主張しつつも、封じ込め(containment)ではなく関与(engagement)を継続することが重要だ。

 

 

 

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