近年、医療機関に対しても労基署の調査が頻繁に行われており、「病院はもちろん、クリニックであっても、いつ労基署が調査に入っても珍しくない時代になった」といわれています。本記事では、経営者が知っておくべき「解雇」と「退職」の種類と基礎知識を解説します。※本連載は、現在開業している医師、これから開業を目指す医師に向けて、人事労務管理のポイントを平易に解説します。

解雇するには、合理的・社会通念上相当な理由が必要

解雇とは使用者による一方的な労働契約の解除のことをいいます。使用者には労働者を解雇する権利がありますが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は権利を濫用したものとして無効とされます。

 

解雇をする場合は労働者に対して、少なくとも30日前に解雇予告を行う必要があります。解雇予告を行わない場合には、平均賃金の30日分以上(最低30日分)の解雇予告手当を支払わなければなりません。ただし以下の者に対しての解雇の場合は適用が除外されます。

 

●日々雇い入れられる者(日雇い労働者となるため、クリニックではほぼ対象外)

●2ヶ月以内の期間を定めて使用される者

●4ヶ月以内の季節的業務に使用される者(出稼労働者となるため、クリニックではほぼ対象外)

●試用期間中の者(14日を超えて引き続き使用される場合を除く)

 

なお、これは解雇予告が除外される要件というだけであり、解雇自体が認められる要件ではないことに留意しなければなりません。

 

また、解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について労働者から証明書を請求された場合においては、使用者は遅滞なく「解雇理由証明書」を交付しなければなりません。

 

[図表]解雇理由証明書

 

解雇の分類は「普通解雇・整理解雇・懲戒解雇」の3つ

次に解雇の種類についてご案内させていただきます。一般的に解雇というものは、以下の3つに分類されます。

 

◆普通解雇

 

労働能力の欠如、勤務成績不良、協調性の欠如等の理由により労働契約を履行できないとされる場合の解雇です。解雇要件が就業規則等によって周知されていることが必要であり、かつ以下をはじめとする解雇制限の要件に該当しないことが必要です。

 

★業務上災害(労災)により療養のため休業する期間とその後の30日間の解雇

★産前産後休業期間(産前6週・産後8週)とその後の30日間の解雇

★年次有給休暇を取得したことを理由とする解雇

★育児休業、介護休業を申し出たことまたは取得したことを理由とする解雇

★公益通報(内部告発)をしたことを理由とする解雇

 

これらの要件に該当した解雇は、その効力自体が認められません(整理解雇、懲戒解雇についても同様)。

 

◆整理解雇

 

経営不振等の経営上の事由に基づく人員整理として行われる解雇です。クリニックを閉院する場合も整理解雇に該当します。他の解雇はその理由が労働者にあるのに対して、整理解雇の理由はクリニックの経営不振によるものであるため、整理解雇が合法とされるためには「整理解雇の4要件」といわれる以下の要件をいずれも満たす必要があります。

 

①人員整理の必要性

維持存続が危ういといった差し迫った必要性が認められる場合のほか、高度の経営危機のもとで人員整理の必要性が客観的に認められること。

 

②解雇回避努力義務の履行

役員報酬の減額、新規採用の抑制、希望退職者の募集、配置転換等の整理解雇回避のための施策を行ったこと。

 

③被解雇者選定の合理性

人選基準が合理的かつ公平に行われていること。

 

④手続の妥当性

整理解雇について事前に労働者に説明・協議をし、納得を得るための手順を踏んでいること。

 

◆懲戒解雇

 

労働者がクリニックの規律違反等を犯した際に、懲戒処分として行われる解雇です。懲戒解雇はその事由につき法律による定めあるいは就業規則等による具体的定めが存在しなければ、労働者に規律違反等の行為があったとしても、その労働者を懲戒解雇することはできません。

 

また、懲戒解雇においては「解雇予告除外認定申請書」を所轄の労働基準監督署長に届け出て認定を受けることができれば、30日前の予告または30日分の解雇予告手当の支払いが除外されます。これが適用される例としては、窃盗や傷害等の明らかな刑法違反があった場合、他の事業場へ転職した場合、2週間以上連絡が取れない状態が続いた場合等があります。

「自主退職・退職勧奨・事由退職」とは?

ここまでは解雇についてご案内してまいりましたが、労働契約の解除については解雇のほかに自主退職、退職勧奨及び事由退職があげられます。それぞれ以下のような特色があります。

 

◆自主退職

 

労働者自身からの申し出による労働契約の解除です。労働者には職業選択の自由から退職の自由が認められているため、その申し出を認めなければいけません。

 

また、クリニックによっては「自主退職の場合は3ヶ月前の申し出が必要」といった定めを設けているケースがありますが、そういった定めはあくまで労働者に対して協力を依頼している程度の拘束力しかなく、原則として民法上の規定により、退職日の2週間前までの申し出による退職は認めなければなりません。

 

退職勧奨

 

自主退職が労働者からの労働契約解除であり、解雇が使用者からの一方的な労働契約の解除であるのに対して、退職勧奨は使用者から労働者に対して退職を勧め、退職をするかどうかの選択を労働者の意思に委ねる状態のことをいいます。最終的な決断は労働者に委ねられることもあり、解雇のような平均賃金30日分の解雇前予告手当の支払のような法的な制限は明確にされていません。

 

しかしながら労働者が退職を選択するだけのメリットがないと合意に至らないため、解雇予告手当以上の手当の支払等の労働者側のメリットが必要となります。その他、実質的に解雇と解釈されるような強引な退職勧奨は解雇とみなされることがありますので留意が必要です。

 

◆事由退職

 

定年、契約期間満了、休職期間満了等のある事由に該当した場合に、自動的に退職となるものをいいます。

 

 

髙田 一毅

みなとみらい税理士法人 髙田会計事務所 所長 税理士

 

クリニック人事労務読本

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髙田 一毅

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