不動産投資の経験があっても、民法についてよく知らない人は多い。知らなくても、さほど困らないからだ。しかし民法は、土地や建物の権利という大きな財産を売買する際の取り決めに係る法律であるわけだから、無知であり続けることは大きなリスクである。そこで本連載では、不動産取引に関連した「民法」について解説する。第5回のテーマは「家族による所有不動産の売買契約」。

所有する不動産を、家族が売却してしまったら…?

家族で暮らしている家や土地などの不動産は、家事や生活費などを分担していると「家族の共用財産」と思い込みがちです。確かに、生活を考えると広い意味で「共有の財産」という言葉で認識し合う必要もあるかもしれませんが、不動産売買契約となると、そうはいきません。

 

いくら共にその家で生活している伴侶や子どもでも、所有権を持たない不動産を売却する権利はないのです。にも関わらず、伴侶や子どもが「売却してしまった」ケースでは、契約解除をすることはできるのでしょうか? 事例をもとに解説します。

妻が勝手に土地を売却したケース

夫は何となく土地を売ろうかどうしようか考えていました(まだ、土地売却を決意したわけではありません)。その状況を家で見ていた妻が、「私は主人の代理人です」と言って、知人の女性との間で、勝手に土地の売買契約を締結してしまいました。この場合、ご主人は土地を売らなければいけないのでしょうか?

 

原則的な考え方は、代理権がないから、夫は土地を売る必要はないというものです(無権代理行為)。例えば、3,000万円で売ろうかと思っていた土地が、妻の売買契約には1,000万円となっていたとしましょう。この場合、1,000万円で売るはずはないですから、夫は売主にはなりません。

 

しかし、夫としては、売ったほうが有利だという場合もあります。たとえば、予想を超えて、奥様の売買契約には5,000万円とされていたとしましょう。この場合、喜んで売りたいと思うはずですので、売買契約が奥様の勝手な行為であったとしても、それを追認することができます(追認権)。追認すれば、ご主人が売主となることができるのです。

 

何も知らずに売買契約を締結した知人女性側ができることはあるのでしょうか? 「追認しますか、追認しませんか? 連絡してください」と夫に対して催告することはできます(催告権)。しかし、夫が「誰だ、こいつは!?  契約なんてしてないぞ、気持ち悪いな、無視しよう」と催告を無視すれば、追認しないこととなるため、夫が売主になることはありません。購入を希望している知人女性側としては、かわいそうな話です。

 

この場合、知人女性は、勝手に売買契約を締結した妻に対して責任を追及し、土地を引渡すように請求する、または、損害賠償を請求することができます。こうなると間接的に、生活を共にする夫は被害を被ることになりそうですね。

 

また、知人女性が冷静に価格を再検討した結果、市場において3,000万円前後で取引されていた土地を5,000万円で買ってしまったという事実を知ったケースではどうでしょう。その場合、買主である知人女性は、売買契約を取り消すことができます(取消権)。

 

ちなみに、買主の取消権と売主の追認権は、早いもの勝ちです。売主に追認された場合は、もはや買主のほうから取り消すことはできなくなってしまいます。夫からすれば、追認権を行使して3,000万円の土地を5,000万円で売ることができれば、「棚からぼた餅」となるでしょう。

未成年の子に、土地の売却を任せたケース

土地の売却を急いでいた父がいたとしましょう。この父は病気で入院することになったため、未成年の子に土地売却を任せました。父は子に代理権を付与して(委任状を書くことになります)、子に売買契約を締結させたのです。しかし、退院後に父の気が変わり、やはり土地を売却したくないと考えました。

 

未成年者(年齢20歳未満の者→18歳未満に改正予定)は制限行為能力者であるため、法律行為を行っても、原則として、取り消すことができます。とすれば、いったん成立したこの売買契約も、父は取り消すことができるのでしょうか? ……答えは否です。

 

未成年者の法律行為を取り消すことができる制度は、未成年者を保護するためのものです。しかし、このケースでは、土地売買で損害を受ける可能性があるのは、売主である父であり、未成年者が損害を被るおそれはありません。また、自ら委任状を書いて子に土地売却を任せています。

 

したがって、父はこの売買契約を取り消すことはできません。

 

岸田 康雄

島津会計税理士法人東京事務所長 事業承継コンサルティング株式会社代表取締役 国際公認投資アナリスト/公認会計士/税理士/中小企業診断士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士

本連載に記載されているデータおよび各種制度の情報はいずれも執筆時点のものであり(2018年8月)、今後変更される可能性があります。あらかじめご了承ください。

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