今回は、隣の空き家が倒れて自宅が破損した場合の修繕費用等の請求について解説します。※本連載は、『空き家・空き地をめぐる法律実務』(新日本法規出版)の中から一部を抜粋し、困った空き家・空き地の問題について、Q&A形式で解説します。

空き家の所有状態によって、請求先は異なる

Q:隣の空き家が老朽化により倒壊し、私の家に倒れかかり、私の家の一部が壊れてしまいました。

 

㋐私は、空き家の所有者に対し、建物の修繕代金を請求できますか。

㋑空き家の所有者が第三者に賃貸していた場合は、どうですか。

 

A:㋐については、所有者に対して請求することができます。

 

㋑については、賃借人に対して請求することができますが、原則として、所有者に対しては請求できません。ただ、賃借人が賃料も支払わず、長期間空き家のまま放置している場合には、例外的に所有者に対して請求することができると考える余地があると思われます。

損害賠償の責任は基本的に「占有者」が負うが・・・

解説

 

1 土地の工作物責任

 

土地の上に人工的に設置されたものを「土地の工作物」といいます。建物は、法律上「土地の工作物」に当たります。

 

土地の工作物の設置又は保存に瑕疵(通常有すべき安全性を有しないこと)があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者が第一次的に損害賠償の責任を負うとされています。ただし、占有者が損害の発生を防止する措置を講じていた場合には、所有者は第二次的に責任を負うことになっています(民717①)。

 

なお、占有者は損害を防止する措置を講じていたことの証明をすれば責任を免れることができますが、所有者は過失がなかったことを立証しても責任を免れることはできません(無過失責任)。

 

2 ㋐について

 

本問は、所有者自身が本件空き家を占有している事案です。所有者は、所有者であるとともに、占有者でもあります。

 

本件空き家は老朽化によって倒壊したわけですから、所有者の本件空き家の保存に瑕疵があったことは明らかと思われます。また本件空き家が倒壊し、隣家であるあなたの家を損壊させてしまったわけですから、所有者が損害の発生を防止するのに必要な注意を怠ったことも明らかです。

 

よって、あなたは、民法717条1項本文により、空き家の所有者に対し、損害賠償請求をすることができます。

 

3 ㋑について

 

本件空き家は“空き家”なのであり、賃借人は本件空き家を現実に占有しているわけではありませんが、賃貸借契約を締結し本件空き家を利用する権原を有する以上、観念的な占有を有していると考えられます。よって、賃借人が占有者ということになります。

 

したがって、あなたは、民法717条1項本文により、原則として、賃借人に対し損害賠償を請求することになります。そして、賃借人が、本件空き家について損害の発生を防止するのに必要な注意を怠っていたことは明らかですので、空き家の所有者に対して損害賠償を請求することはできません。

 

ただ、賃借人が、例えば行方不明となり、長期間にわたって賃料が支払われることもなく空き家のまま放置されているような場合は、いくら観念的であっても、賃借人に占有があるといえるかは疑問の残るところです。このような場合には、もはや賃借人には占有はなく、空き家の所有者に観念的な占有があると思われます。よって、このような場合には、あなたは、空き家の所有者に対し損害賠償を請求できる余地があると考えられます。

本連載は、2016年2月15日刊行の書籍『空き家・空き地をめぐる法律実務』(新日本法規出版)から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

空き家・空き地をめぐる法律実務

空き家・空き地をめぐる法律実務

編集:旭合同法律事務所

新日本法規出版

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