昨年末の下請取引に関するルール改正を経て、下請事業者への支払いサイトの短縮が強く求められるようになってきた。大手賃貸業界でレオパレス21が先陣を切って、電子記録債権を利用した決済プラットフォーム事業を展開するTranzaxのサプライチェーン・ファイナンスを導入しようとしている。最終回は、支払いの早期化でサプライヤーの資金効率をさらに高める「POファイナンス」の可能性などについて、レオパレス21の深山忠広副社長、芦村戦略企画部長とTranzax小倉隆志社長に伺った。

「現金よりも早く資金化できる仕組み」とは?

――これまでサプライチェーン・ファイナンスについて詳しく聞かせてもらいましたが、実際にはTranzaxでなくとも、同様のサービスを提供しているメガバンク系の企業がありますよね?

 

株式会社レオパレス21マーケット開発統括部 戦略企画部長芦村健人氏
株式会社レオパレス21
マーケット開発統括部 戦略企画部長芦村健人 氏

芦村 おっしゃるとおりです。その中で、弊社がTranzaxさんを選んだ理由の1つとして、独自の「PO(パーチェス・オーダー)ファイナンス」に魅力を感じたからです。これは、サプライチェーン・ファイナンスをさらに進化させた、資金化の仕組みでTranzaxさんが特許を取得されているようですね?

 

小倉 そうなんです。簡単に言えば、現金よりも早く資金化できる仕組みです。例えば、レオパレス21さんが工務店さんに賃貸住宅の建設を発注したとします。その発注書を、電子記録債権化して買い取ることで、工務店さんの資金調達を容易にする仕組みなのです。

 

発注書が債権となって、現金払いよりも早くサプライヤーさんは現金を得ることができます。もちろん、物件を建てた後に瑕疵が発見されるなどのクレジットリスクがあるので、発注段階の代金の全額を資金化することはできませんが、その工事代金の半額はすぐに工務店に振り込まれるようになる見込みです。

 

――いつごろ、そのPOファイナンスは実現するのですか?

 

Tranzax代表取締役社長 小倉隆志氏
Tranzax代表取締役社長 小倉隆志 氏

小倉 現在、金融庁の認可が下りるのを待っている段階ですが、経済産業省とはすでに実証実験を進めています。現在、板金加工会社と、その融資機関として三井住友信託、足利銀行、北洋銀行、西武信用金庫、多摩信用金庫とコンソーシアムを組んで、実験を行っているところなのです。

 

サプライチェーン・ファイナンスではレオパレス21さんのような大手企業の資金をSPCに入れて、その資金で持って下請事業者の資金調達を支援する仕組みとなりますが、POファイナンスになるとまったく“モノ”ができあがっていない段階での資金化支援になりますので、金融機関の協力が不可欠になるわけです。

 

恒久的な制度設計ができる電子記録債権

――その分、実現のハードルは高くなりそうですね。

 

小倉 しかし、すでに大手銀行の一角からも、「ぜひ一緒にやりたい」というお言葉を頂いております。

 

株式会社レオパレス21      取締役 副社長執行役員 深山忠広 氏
株式会社レオパレス21      取締役 副社長執行役員 深山忠広 氏

深山 このたびの民法改正の影響もあるのでは?

 

小倉 その影響は間違いなくあると思います。銀行が大手企業向けに提供していた一括ファクタリングに関して言うと、今回の民法改正で契約の見直しを検討しなければならないケースが多く出てくるものと思われます。契約書の見直しをするくらいであれば、新しい電子記録債権のシステムに切り替えようという動きも出てくるでしょう。検討のテーブルに乗ることができれば、当社のシステムの良さを発注企業、納入企業の皆様にわかっていただけると思います。

 

電子記録債権は民法改正とは関係ありませんので、民法改正の施行時期を考えずに、恒久的な制度設計ができます。これから支払いシステムは電子記録債権中心になるのではないでしょうか。また支払いの早期化は、今や国の重要政策となっています。現金払いよりも早いPOファイナンスは今後注目を集めるものと思います。

 

深山 ぜひ、早々にPOファイナンスを実現してほしいですね。そうすれば、弊社のステークホルダーであるサプライヤーの資金効率はさらによくなる。資金面での不安がなくなって、人材確保も容易になり、回りまわって建設業界に若い世代が流入してくることも期待されます。そのときには、建設業界の姿は一変しているでしょう。

 

 

取材・文/田茂井 治 撮影/永井 浩 
※本インタビューは、2017年5月29日に収録したものです。