「思ったより増えていない」気力も衰え、71歳男性が抱えるモヤモヤ

65歳から70歳まで、再雇用による収入で貯金を減らすことなく生活できていたマサルさん。しかし、一方で、その5年間は旅行や趣味にお金を使う機会はあまりありませんでした。

「老後のため」と割り切って支出を抑えた生活をしていたものの、いざ年金生活に入ってみても、思い描いていたほどの変化は感じられません。

再雇用時代の収入が額面で約25万円、増えた年金の手取りが約24万円と、あまり変わらない気がしてしまいます。

さらに、70歳を過ぎて時間に余裕ができたものの、以前のように積極的に出かけようという気力が少しずつ薄れてきました。

「もう少し早く受け取って、その分を使ってもよかったのかもしれない……」

そう感じる一方で、繰り下げたことで年金額が増えているのも事実です。相談する相手もいないため、マサルさんはどうするのがよかったのかモヤモヤした日々を送っています。

【CFPが解説】額面ではなく「手取り」で比較を…年金繰下げ受給の判断基準

年金の繰下げ受給について、どのように判断すればいいのでしょうか。

まず意識したいのは、年金は額面ではなく手取りで比較するという視点です。たとえば、マサルさんのように月8万円の増額があっても、税金や社会保険料を差し引いた実質的な増加が5万円に留まる場合があるのです。

さらに、この増加分で繰下げ期間中に受け取らなかった未受給分の年金(19万円×12ヵ月×5年間=1,140万円)を回収するには、一定の年数がかかります。つまり、70代後半になってようやく効果が見えてくるともいえます。

そのうえで、次のような視点を持つと判断しやすくなります。

・65歳以降の収入源はあるか(再雇用やアルバイト、その他収入)
・医療や介護など、支出が増える可能性に備えられているか
・何歳頃に、どのようなことにお金を使いたいか

年金制度は、税や社会保険と密接に結びついています。そのため、「受給を遅らせると増額される」ことだけを切り取って判断するのではなく、全体のバランスのなかで捉えることが重要といえます。

繰下げ受給は、将来の安心を手厚くする選択ですが、一方で、その分だけ今の「使えるお金」や「使える時間」は相対的に減ることになります。金額だけで比較すると合理的に見える選択でも、その過程で生活の満足度が下がってしまっては、本来の目的から外れてしまう可能性もあります。

お金を使うタイミングは取り戻せない…納得感のある老後を迎えるために

年金を増やすことはできても、使うタイミングは取り戻せません。

繰下げ受給を検討する際は、「何歳でいくら受け取るか」だけではなく、「どの時期にどのような生活を送りたいか」、そして「そのためにどれだけのお金が必要か」を具体的に考えることが大切です。

そのような視点を持つことが、より納得感のある選択につながります。

石川 亜希子
CFP

〈出典〉
※1 総務省「2025年(令和7年)家計調査報告」

https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/pdf/fies_gaikyo2025.pdf

※個人情報保護の観点から、登場人物の情報を一部変更しています。

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