財産分与なしで離婚に合意…5年経って気づいた「失ったもの」の重み

妻は謝って許しを請うと思っていたヨウスケさんは耳を疑い、怒りに震えながら答えました。

「わかった、それなら出ていけ。当然なにもやらないからな」

ヒトミさんも自分に非があるのだからと納得し、親にお金を借りて家を出ました。パート収入は年120万円ほどで生計は立てられないため、スーパーは退職。ケイタさんとの関係もいつの間にかギクシャクし、やがて自然消滅してしまいました。

もうすぐ離婚して5年。医療事務の資格を活かして病院で正社員として働いていますが、家計は楽にはなりません。

「財産分与とか、ちゃんと話し合っておけばよかった……」

ケイタさんとの関係が壊れたことで、自分の軽率な行動をようやく深く反省したヒトミさん。しかし同時に、勢いで家を飛び出し、なにも取り決めずに離婚してしまったことも後悔しています。

【弁護士が解説】不貞の事実と「財産分与」は別問題…感情で動くリスク

本件でまず押さえるべきなのは、「不貞行為をした側であっても、当然に財産分与を受けられなくなるわけではない」という点です。

財産分与は、夫婦が婚姻中に協力して形成した財産を清算する制度であり、預貯金、不動産、退職金などが対象になります。夫名義の財産であっても、妻が家事や育児を担い、家庭を支えてきた事情は考慮されます。

もっとも、不貞行為をした側に一切影響がないわけでもありません。不貞は慰謝料の問題として整理されるのが基本ですが、実務上、慰謝料と財産分与を全体として調整する形で合意することもあります。そのため、「不倫をしたのだから財産分与はゼロ」とも、「不倫と財産分与は完全に無関係」とも単純にはいえません。

また、財産分与の請求期間にも注意が必要です。従来は離婚から2年以内でしたが、2026年4月1日施行の改正により、離婚成立の日から5年以内に延長されています。ただし、離婚時期や合意内容によって結論は変わります。

感情的に家を出る前に、離婚するかどうか、財産分与・慰謝料をどうするかなどを、分けて考えるべきだったと思います。不貞の責任があることと、婚姻中に形成した財産の清算をなにも確認せず放棄することは、別の問題です。

山村 暢彦
弁護士法人山村法律事務所
代表弁護士

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