生前に母が作成した遺言どおり、遺された預金1億5,000万円をきょうだい3人で均等に分けることになったマユミさん(仮名・52歳)たち。しかし、長年実家に縛りつけられていた真面目な姉から、衝撃の事実を告白されることになります。本記事では、弁護士の山村暢彦氏が、きょうだい間で起こり得る相続トラブルと、親の財産管理を特定の相続人が担う危険性について、実際の事例をもとに解説します。
「1.2億円も減ってる?」消えた遺産に52歳妹が絶句。遺言書開封の席、真面目な独身姉が「顔面蒼白」で小刻みに震えていたワケ【弁護士が解説】
完璧な姉の裏の顔と「消えた大金」の真相
「……ごめんなさい、私が使ったの」
観念したように、サユリさんは消え入るような声で告白しました。
厳格な母に支配され、結婚も諦めて実家に縛りつけられたストレスは、サユリさんの心を壊していました。母が通帳の管理をサユリさんに任せたのをいいことに、最初はネット通販での散財から始まり、やがて心の隙間を埋めるようにホストクラブにハマり、損失を取り戻そうと投資に手を出して大失敗。
気づけば10年間で1億2,000万円もの大金を溶かしてしまっていたのです。
「私には、これしかストレスを発散する方法がなかった……」と泣き崩れるサユリさんを見て、弟は怒る気力も失っていました。マユミさんもまた、逃げるように実家を出て、サユリさんにすべての重圧を押しつけて見て見ぬふりをしてきた自分たちに責任の一端があることを痛感しました。
後日、サユリさんは「実家を売却して、少しでも2人に現金を渡す。私は安いアパートで一人で暮らすから」と申し出ました。マユミさんと弟は、「そもそも残った3,000万円と家の売却益があれば十分だ。もう姉を責めるのはやめよう」と同意しました。
長年にわたる親への服従と引き換えに、莫大な財産を食いつぶしてしまった姉。きょうだいの溝を埋め、本当の意味での家族関係を築き直すには、まだしばらくの時間が必要になりそうです。
【弁護士が解説】親の預金使い込み…同居家族による「財産管理」のリスク
本件でまず押さえるべきなのは、親と同居し、介護や生活支援を担っていたとしても、親の預金を自由に使ってよいわけではないという点です。
通帳やキャッシュカードを預かっていても、通常は親の生活費、医療費、介護費用など、本人のために管理する趣旨にとどまります。本人の承諾なく、子が自分の買い物、遊興費、投資資金などに使えば、不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求の対象となり得ます。
本来であれば、使い込んだ金銭について不当利得返還請求訴訟を行い、相続財産を本来あった金額に戻して、そのうえで遺産分割、すなわち相続財産を分配するという流れとなります。
もちろん、長女が長年両親と同居し、他のきょうだいより大きな負担を背負っていた事情は無視できません。介護や生活支援の負担が一部の相続人に偏ることは、相続の現場でもよくあります。
しかし、親の財産を無断で使い込んでよいかは別問題です。金銭的評価を求めるなら、生前に報酬や生活費負担を取り決めるか、相続時に寄与分などとして整理すべきでした。
実務上は、金融機関の取引履歴、通帳、カード利用履歴、領収書、介護費用の支出記録などを確認し、本人のための支出か、同居家族の合理的な生活費か、私的利用かを切り分けます。親の財産管理を一人の子に任せる場合は、残高や支出内容を定期的に共有し、財産管理契約、任意後見、民事信託、家族間の費用負担合意などで管理方法を明確にしておくことが重要です。
山村 暢彦
弁護士法人山村法律事務所
代表弁護士
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