矢部「名もなき人たちの何かが残っているかもしれない」

矢部:自分の仕事が日々小さいなと思ってしまったり、果たして実があるのかなと思ったりすることが、たとえ乙丸にあったとしても、まひろさんが書いた、1000年後にまで残る『源氏物語』の中にももしかしたら、乙丸がいたからってこと、そこまではないかもしれないですけれど、乙丸とまひろさまの関係の何かがそこに残っているかもしれない、と思うんです。

それを今僕らが読むことがあるかもしれないということが、「仕事が小さい」とか「身分が高いとか低い」とか、そういうことだけではない気がして……。「生きている」というか、歴史上には残っていないけれど生きていた人間がいて、それがドラマで描かれることで、何かを感じられるという……。

やっぱり、名前が残ってない僕らみたいな人が圧倒的に多かったと思うんですよね。でも、名もなき人たちが“藤原道長”っていう人物の中にちょっと残っていて、歴史や読まれた歌、『源氏物語』にもきっと残っているんじゃないかなと思うんです。それってすごくロマンがあることだし、日々生きることを肯定できるようなことなんだと思います。

(C)NHK
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『光る君へ』

『光る君へ』は、平安時代中期の貴族社会を舞台に、千年の時を超えるベストセラー『源氏物語』を書き上げた紫式部(まひろ)が主人公。のちの紫式部であるまひろが、藤原道長への思い、そして秘めた情熱とたぐいまれな想像力で「光源氏=光る君」のストーリーを紡いでゆく姿を描く。脚本を手掛けるのは、『セカンドバージン』や『知らなくていいコト』『恋する母たち』などで知られる大石静さんで、今回が2度目の大河ドラマ執筆となる。

THE GOLD 60編集部