(※写真はイメージです/PIXTA)

「部下1人1人と丁寧に関わる上司」というと、“いい上司”のように思えるかもしれません。しかし実際には、組織に思わぬ弊害を生み出す存在になってしまう可能性がある、と、自身も社員数50名の新聞販売店を23年間経営した経験を持ち、多くの企業の経営支援に携わる米澤晋也氏は言います。本稿では、米澤氏が、なぜこのような事態が起きてしまうのか、部下とはどのような向き合い方をすれば良いのかについて解説します。

“上司の役割を集団内に埋め込んだ”自律性の高いチーム

その方は、教育学の教授です。教授のお話の中から、様々なヒントをいただきました。

 

例えば小学校では、45分間の授業時間内に、教員が児童1人1人と関わる事は、難しい事が分かっています。30人以上の児童に対し、教員は1人です。教員が児童1人1人と関わるためには、児童1人あたり僅か90秒ずつという計算になるのです。

 

教授は、学級において、グループダイナミクス(集団力学)を応用した「学習する集団」の育成ノウハウを開発しました。課題に対し素晴らしい知恵を出し、自律的に行動する集団が育つのです。

 

私は、大学に伺って教授の理論を学び、企業に特化した手法を開発しました。要点は次の通りです。

 

1.みんなが意義を感じる「チームのミッション」を設定する。

 

2.ミッション達成のための方法・計画を、自分たちで開発する。

 

3.計画の進捗(全体の進捗と個人の進捗)と成果を見える化する。

 

4.頑張っている部下の様子を全体に報せる。

 

5.定期的に実践を振り返り学び合う場を設ける。

 

これができると、これまで、上司が一手に引き受けてきた様々な役割…「問題提起」、「指導」、「進捗確認」、「ヤル気を引き出す」といったものが、集団の中に埋め込まれ、必要な時に最適な人がやるようになります。

 

目標設定や計画づくりに部下が参画するので、当事者意識が向上します。都度、上司に相談するプロセスが省かれるので、意思決定が早くなり、上司が思いつかないような豊かなアイデアが出ます。

 

イメージをしやすくするために、当社の新聞配達現場(メンバー数30名)の実践に照らし合わせ解説します。

クレームが4分の1に削減。グループダイナミクスの効果

当社では、15年ほど前、新聞の誤配達によるクレームが毎月20件以上発生していました。

 

直属の上司が部下に、「〇〇誤配達3件以内を目指そう」と、個別目標を設定して指導をしましたが、一向に減りませんでした。そこで、グループダイナミクスを活用した手法を導入しました。

 

1.「ひと月あたりの誤配達を、全体で10件以内に収める」という全体ミッションを設定しました。しかし、ミッションの意義が分からないと自分事にはなりません。そこで、誤配達を減らす意義をみんなで考えました。

 

すると、「お客様や社内の仲間に迷惑をかけない」というシンプルな意見が出ました。「誰にどんな迷惑がかかるか?」と深掘りしたら、特にクレームを受ける事務員さんが辛いと、心を傷める配達員が多くいました。

 

ミッションに「お客様はもちろん、仲間に悲しい思いをさせないため」という意義が加わり、主体的な目標に昇華したのです。

 

2.ミッション達成のための方法・計画は、直属の上司も加わってみんなで考えました。その結果、誤配達のない配達員の行動を細かく分解し、それをみんなが正確に再現するというアイデアが採用されました。

次ページ誤配達は減少、離職が減るという副次的な効果も

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