(※画像はイメージです/PIXTA)

事務所の賃料や光熱費、材料費、仕入れに関する費用など、業種に関わらず会社を運営するにあたって必要になる「運転資金」。どのような会社でも、この運転資金の調達は悩みのタネです。すでに銀行などから借入れを行っている場合、調達方法に苦戦し企業が窮地に追い込まれてしまうことも……。今回は、企業法務に詳しい柿沼彰弁護士がB社の事例とともに、運転資金調達にも活用できる「事業用不動産担保ローン」について解説します。

「事業用不動産担保ローン」の特徴

(※画像はイメージです/PIXTA)
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特徴1.借入限度額が無担保ローンより「高くなりやすい」

「事業用不動産担保ローン」には、借入限度額が無担保ローンと比べて高くなりやすいという特徴があります。この理由はなんなのでしょうか。

 

貸し手にとって「いくら貸すか」というのは、裏を返せば「いくらまでなら回収できるか」という判断になります。そのため、無担保ローンであっても、魅力的なビジネスの提案と具体的な計画書があれば、多額の設備資金の融資を受けられる場合があります。

 

しかし、「運転資金」を調達したい場合には、「そのときの運転資金不足が一時的なものであり、その原因は早々に解消が見込め、すぐに会社は持ち直せる」と期待できるような例外的な場合でない限り、多額の融資を受けることは困難です。

 

一方、不動産担保ローンにおいて、借入限度額は、担保とする不動産の価値に応じて設定されます。担保となる不動産は高額である場合が多いため、自然と、事業用不動産担保ローンの借入限度額は無担保ローンに比べて高くなるのです

 

今回の事例でも、B社は、無担保ローンの場合1,000万円程度の融資しか受けられませんでしたが、販売用不動産を担保とすることで、6,700万円の融資を受けることができました。

 

特徴2.返済期間が長く、金利が低い

また、事業用不動産担保ローンには、無担保ローンと比べて、返済期間が長く、金利も低くなる傾向にあるという特徴もあります。

 

いずれも借主に有利な特徴ですが、これは不動産を担保とすることで、信用リスクが大きく低減されるからです。

 

今回の事例では、B社の運転資金不足は一時的なものであり、結果的にはすぐに返済できましたが、事業用不動産担保ローンを活用して運転資金を調達すれば毎月の返済負担を抑えられるため、無担保ローンを活用した場合と比較して、より長い時間、販売用不動産が売れることを待つことができます。

「事業用不動産担保ローン」活用時の4つの注意点

(※画像はイメージです/PIXTA)
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(1)審査には「2週間~1ヵ月」程度の時間がかかる

事業用不動産担保ローンでは、担保とした不動産の価値に応じて、融資の可否や金額が判断されます。そして、不動産の価値を評価するためには、通常2週間~1ヵ月程度の時間がかかります。したがって、早急に運転資金が必要となる場合には、審査に時間がかからないほかのローンと併用することも検討するべきでしょう。

 

(2)返済できなければ不動産を失う可能性がある

事業用不動産担保ローンを利用した場合、金融機関は担保とした不動産に対して、抵当権等の担保権を設定して登記します。そのため、返済が滞ってしまった場合は「担保権」を実行し、競売等の手段によって不動産を売却することで、金融機関は貸付金を回収することになります。

 

借り手は、不動産を担保にする以上、「借入金を返済できなければ不動産を失う可能性がある」ことへの覚悟が必要です。

 

(3)手数料がかかる

不動産を評価するためにも、抵当権等の設定の登記をするためにも費用がかかります。そのため多くの事業用不動産担保ローンでは、契約時に手数料が発生します。さらに返済が終わったあとも、抵当権等の抹消の登記をするために費用がかかります。これも注意点といえるでしょう。

 

(4)不動産の価値が下落した場合「追加担保」を要求されるケースも

また、不動産の価値が大きく変動する場合があることも認識しておくべきです。担保とした不動産の価値が高まる場合には問題ありませんが、価値が大きく下落してしまった場合には、金融機関から「追加担保の差し入れ」を要求される場合があります。

 

もっとも、金融機関はあらかじめ、担保とした不動産の評価が下落するリスクを考慮し、評価額の60%~80%程度までしか貸し付けを行わないことが通常です。今回の事例でも、もしB社の運転資金として1億円の借入れが必要であった場合には、担保は1億円のマンション1室だけでは足りなかったと思われます。

 

おわりに

「事業者用不動産担保ローン」は、担保にできる不動産を所有していることが利用の前提となりますが、毎月の返済負担を抑えながら、無担保ローンと比較してより多くの運転資金を借りることができます。

 

返済が滞った場合には不動産を失ってしまうなどの注意点はあるものの、B社のように一時的に運転資金に困った場合には、事業者用不動産担保ローンの活用が有力な選択肢のひとつとなるでしょう。

 

 

柿沼 彰

柿沼彰法律事務所 

弁護士/公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士

 

 

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本記事は、株式会社クレディセゾンが運営する『セゾンのくらし大研究』のコラムより、一部編集のうえ転載したものです。