(※写真はイメージです/PIXTA)

「成年後見人制度」は、認知症などによって判断能力が低下した人の財産管理や生活に必要な契約を代理人が行うことで、円滑に進めるための制度だ。しばしば問題点が指摘されるこの制度だが、相続に大きな影響を与える「成年後見人制度のリアル」について、行政書士であり静岡県家族信託協会代表を務める石川秀樹氏のブログより、具体的な例を交えて解説された箇所を抜粋して紹介する。

成年後見に誘導する家庭裁判所

もう一つの問題は、もっと重大です。

 

法定後見も任意後見も「成年後見制度」というひとつの庭の中にある制度です。最近相次いで私は、「任意後見を始めようとしたら家庭裁判所の事務官に、法定後見に切り替えるよう誘導された」という相談を受けて驚きました。ひとつの庭の中にあるどころか、家裁の中では現状、両者は“1つの橋”でつながっているのです。

 

 

前述の通り、成年後見制度には「法定後見(後見/保佐/補助)」と「任意後見」があります。

 

「任意後見と成年後見には橋が架かっている」ことについて、専門家でもこの問題を意識している人は少ないようです。私も認識不足のひとりだったわけですが、「まさか」と思ったのには理由があります。

 

「任意後見契約に関する法律10条1項」には、こう書いてあるからです。

 

第10条 (後見、保佐及び補助との関係)

 

1 任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。

 

この条項を私は素直に、「任意後見契約を結んでいれば、後から成年後見制度が割り込む余地はない」と思い込んでいました。

 

「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」とは、普通に考えれば、①本人がだまされやすい、身内の後見人に浪費癖があるなど成年後見人の「取消権」があった方が本人を守りやすい場合、あるいは②本人と後見人の間が不仲になってしまい、任意後見できる状態にない場合──など、特殊なケースであるはずです。

成年後見を避ける防波堤は

ですから家族信託契約をすすめる善良な専門家の中には、「家族信託に成年後見人が入れないようにする目的」で、あえて(委託者と)任意後見契約まで結ぶことを原則としている人もいるくらいです。

 

しかし私は、家庭裁判所が想像以上に頻繁に「任意後見の入り口(任意後見監督人選任のタイミング)」で、「任意後見ではなく、成年後見を開始した方がいい」と強く家族に促しているということに、一般の方々のご相談から気づいた、というわけです。

 

これでは任意後見は防波堤になるどころか、逆に、法定後見を呼び込む誘因になる」と思うようになり、以後私は、任意後見契約も安易に勧めないようにしたのです。

 

家裁(の事務官)は、本人・家族のヒヤリング時に“❶親族間の対立”を感じ取ったり、任意後見人候補者に“❷不正をする恐れ”を感じると、「任意後見ではなく、成年後見の方がよさそうですね」と促しています。

 

私も、親の財産についてや、親に後見人を付けるか否かで兄弟姉妹で争っているなどの対立がある場合、任意後見契約はすすめず、公的後見を使うか、あるいは「何もしない」かをおすすめしています。※この場合、家族信託も不可です(受託者になる人が大変な思いをするだけですから)。

 

 

石川 秀樹

静岡県家族信託協会 行政書士

 

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