敗戦後のハイパーインフレ終了後の日本には、日本経済はまったくのゼロからスタートせざるを得ませんでした。本来であれば、日本も外国から巨額の借入れを行い、高い金利を支払いつつ、外国資本に金融を左右されるという不安定な状況で経済を再生させる必要がありました。ところが日本経済は偶然にもある時期からそうした状況とは無縁となりました。経済評論家の加谷珪一氏が著書『縮小ニッポンの再興戦略』(マガジンハウス新書)で解説します。

借金に頼ることなく外貨を獲得した戦争特需

世の中には、モノ作りを主体とする製造業とお金を扱う金融業は、互いに無関係な業態と考える人が多いのですが、現実はまったく逆です。企業が製品を製造するためには、まずは生産設備を整え、原材料や部品を購入しなければなりません。原材料や部品の多くは輸入なので決済にはドルなどの外貨が必要となります。つまり、モノ作りを始めるためには、まずは外貨を調達しなければならないのです。

 

資金や資材の確保に際して外国資本に頼らない場合でも、そもそもお金がありませんから、政府が国債を大量発行し、中央銀行がそれを引き受けることで資金を調達する必要が出てきます。

 

実際、政府は国内向けの復興資金を十分に確保できず、復興金融金庫(のちの日本開発銀行、現在の日本政策投資銀行)が発行する金融債を日銀が引き受ける形で資金を供給しましたから、日本経済は再び激しいインフレになってしまいました(復金インフレ)。インフレを抑制するため、政府はやむなく強力な金融引き締め策に転じ、何とかインフレを押さえ込みましたが、今度は激しい不況に陥ってしまったのです(ドッジライン不況)。

 

つまり、ゼロから経済を成長させる国というのは、外国からの借金に頼るか、そうでなければ激しいインフレを覚悟する必要があります。インフレを繰り返す国がどのような状況に陥るのかは、何度もハイパーインフレを起こしている中南米のアルゼンチンを見れば明らかでしょう。

 

一部では戦争は経済を刺激するといった安易な主張をする人がいますが、それは現実を知らない机上の空論です。戦争をする以上、最終的には勝利か敗北しかなく、戦争に敗れた国はすべてを失うことになります。資本を消失させた国が背負うハンデキャップの大きさは想像を超えるレベルであり、場合によっては二度と復活できないほどの痛手を負います。終戦直後の日本はまさにそのような状況だったといってよいでしょう。

 

本来であれば、日本も外国から巨額の借入れを行い、高い金利を支払いつつ、外国資本に金融を左右されるという不安定な状況で経済を再生させる必要がありました。ところが日本経済は偶然にもある時期からそうした状況とは無縁となり、借金に頼ることなく外貨を獲得し、これを使って一気に成長を実現できたのです。その偶然というのは「朝鮮戦争」です。

 

1950年6月、北朝鮮が突如、軍事境界線を越えて南に侵攻。米国は国連軍を組織し、韓国を支援したことから、朝鮮半島全域が戦争状態となりました。朝鮮半島のすぐ隣にある日本は米軍の最前線基地となり、開戦直後から日本企業には軍需物資の注文が殺到しました。朝鮮戦争を契機とする一連の特需を朝鮮特需と呼びます。

 

朝鮮特需の勢いはすさまじく、戦争が始まった翌月には早くもトヨタ自動車に大量のトラック注文が入りました。各社は増産に追われることになり、日本経済は一気に息を吹き返したのです。

 

あらためて数字で検証すると朝鮮特需の巨大さが分かります。

 

一連の特需では、1950年から1952年の3年間に10億ドルを上回る発注が日本企業に対して行われました。1ドル=360円とすると、3年間で3600億円、1年あたりでは1200億円となります。朝鮮戦争前年の日本のGDPは3・5兆円程度しかなく、GDPの3・4%に相当する発注が米軍から一気に出された計算になります。

 

企業は増産に追われましたから、設備投資が爆発的に増加し、あらゆる業界が好景気に沸きました。1951年の名目GDPは前年比で何とプラス38%となり、翌1952年はプラス12%、1953年はプラス15%となりました。この数字は高度成長期の中国をはるかに上回る水準であり、特需の影響のすさまじさを物語っています。

 

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本連載は加谷珪一氏の著書『縮小ニッポンの再興戦略』(マガジンハウス新書)から一部を抜粋し、再編集したものです。

縮小ニッポンの再興戦略

縮小ニッポンの再興戦略

加谷 珪一

マガジンハウス新書

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