写真提供:リツデザイン一級建築士事務所

日本の住宅性能が他国に比べて非常に劣っている理由のひとつに、国による制度面の強化の遅れがありました。しかし、2025年までに現行の省エネ基準への適合が義務化されることになり、それ以外にも様々な制度変更によって現状の性能水準から今後急激に変化する可能性が高くなっています。今回は、住まいるサポート株式会社代表取締役・高橋彰氏が、住宅の性能向上に積極的に取り組んでいる衆議院議員の田嶋要氏と柿沢未途氏にインタビューします。

最低室温規定の導入で、ヒートショックリスクをなくす

柿沢:イギリス・ドイツなどの欧州の国々や、米国の一部の州では、「最低室温規定」というのが定められていて、室内温度を18~20℃以上に保てなければ、その住宅は違法であるみたいなことになっています。

 

これは、阪神大震災のあとの建築基準法の耐震基準の問題と同じだと思います。一定の耐震性能を満たさない建物は、人の命に危害を及ぼすということで、耐震基準は義務化されています。ヒートショックリスクのある断熱性能が低い住宅も、人の命を損なうという点では同じだと思います。ヒートショックで年間1万9000人もの方々が亡くなっているといわれているわけですから。

 

ヒートショックリスクのない断熱性能を担保するという観点で、建築基準法に最低室内温度を「〇〇℃以下の部屋は違法」と定めることが一つ目標としてはあり得るかなと思います。

 

田嶋:私もそこは同感で、断熱改修の補助金等の飴の政策ではなく、人権という観点から室内温度が18度とか20度を下回るようなところには人が住めないというような、欧米の最低室温規定のような政策を本当は超党派でも、実現したいくらいです。

 

イギリスでは賃貸住宅は、断熱性能が一定以下の建物の賃貸が禁止されていて、解体か断熱改修工事をおこなうかのどちらかを選ばないといけないというような制度になっているそうなんですけど、それくらいの制度を目指すべきかもしれない。

 

出典:英国エネルギー・気候変動省ホームページhttps://www.decc.gov.uk/en/content/cms/news/pn11_83/pn11_83.aspx.
[図表4]英国 Energy Act 2011 出典:英国エネルギー・気候変動省ホームページ
https://www.decc.gov.uk/en/content/cms/news/pn11_83/pn11_83.aspx.
英国の省エネルギー性能表示の例

 

ただ、日本は幸か不幸か、これから人口減少が激しくなり、2050年くらいには4軒に1軒くらいが空き家になるから、断熱性能の低い家のほとんどが空き家になってくるっていうのも現実でしょう。他の先進国に比べたら、新築が極めてたくさん作られる国なので、新築の高断熱化を義務にすることの効果はかなり大きいというふうにも思いますね。

 

それから、ドイツやイギリスなどでは積極的に取り組んでいるようですが、エネルギー効率の悪い家電を政府主導で更新させていくようなことも大事ですね。

 

またリフォーム産業は、人口が日本の2/3くらいのドイツでは、少なく見積もっても日本の倍ぐらいのリフォーム市場ができています。日本では、新築偏重からリフォーム中心への建築産業の構造転換の支援が、まだまだ足らない。新築誘導型の昔ながらの政策が、かなり根強く残っているのかなっていう感じがしています。

 

ただ、国土交通省が策定している住生活基本計画を見ていくと、毎回資産性を上げるとか、造ったものを大事にしていくという思想は、随分前から入っているんです。ですが、それがなかなか具体的な施策に落ちてきていない。国土交通省のなかにも、もどかしさはにじみ出ているような、そんな印象です。

 

高橋:なるほど。日本の民法を考えると、おそらく既存の個人の戸建住宅に断熱改修工事を義務付けることは、ほぼ無理じゃないですか。でも、イギリスのように、既存の賃貸住宅に関しては、高断熱化を義務にすることは考えられるかもしれませんね。少なくとも公的な賃貸住宅に関しては、性能向上は、きちんとやっていくべきだとは思います。

 

田嶋:所有か賃貸と、新築か既存かで、4つのセグメントがあるわけですが、個人所有の既存住宅の省エネ化が一番難しいっていうところありますよね。

 

ただ、既存の古い所有というのは、日本の場合は他の国に比べて圧倒的に比率が少ないですので、実はドイツやイギリスやフランスよりも大きく変えていく環境としては、日本のほうが有利なんですよ。

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