POSシステムを導入して、簡単に集計・管理・分析ができるようになり、売り上げが伸びると期待したが、思ったより効果が上がらなかったという。「飯田屋」6代目・飯田結太氏が著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)で理由を明かします。

「説明するだけで売ろうとしない」販売員

■プロの販売員よりプロの消費者

 

店を経営する立場としては「売れる販売員」を雇いたい気持ちはあります。事実、過去には求人募集欄に「販売経験者優遇」と記していたこともありました。

 

しかし、商品を売る技術と、お客様の気持ちに寄り添える能力は違います。飯田屋が求めているのは、販売に長けたプロの販売員ではなく、一消費者としてお客様の事情に寄り添える、言わばプロの消費者なのです。

 

以前、販売経験も豊富で、売るのがとても上手な人が入社したことがありました。しかし、あまりにも売るのが巧みすぎたのです。経営者として業績向上は喜ばしいはずなのに、その人が販売する様子を見ていて「本当に、これでいいのだろうか?」と疑問が残りました。それは、その人の接客でお客様が満足しているようには見えなかったからです。

 

プロ販売員として効率よく短時間で販売して成果を上げる技術は、重要かもしれません。しかし、飯田屋では違います。1000枚フライパンを売るよりも、たった1枚でもお客様が心から納得し喜んで買って帰ってもらうことが飯田屋の仕事だからです。

 

僕の目には、お客様が従業員の押しの強い接客に圧倒されて、購入を決めさせられたように映りました。その人はお客様に喜んでいただくことより、前職の営業ノルマ達成で感じていたような、売上を上げることに喜びを見出していたように思えたのです。

 

「売れる販売員」として数字を目標に戦っていると、「あと1点でも、あと1000円でも売りたい」と、お客様を数字で判断してしまうことがあるように思います。

 

飯田屋では、お客様には心から納得して購入してほしいと願っています。ご購入いただいた料理道具に対して後悔してほしくありません。

 

それにはプロの販売員よりもプロの消費者のほうが向いています。それは、一人の消費者としてお客様と同じ目線で商品を見ることのできる販売員です。

 

たとえば「飯田屋のかあちゃん」と呼ばれ、みんなに愛されている長沼聡美は二人の子どもを育てるベテラン主婦。自分の生活経験を基に、「あれが欲しい」「こんなのがあったらいいな」と思う商品を仕入れ、プロの消費者の目線で販売してくれています。

 

たとえば、マーナの「お弁当箱洗いブラシ」。密封容器やお弁当箱のふたの溝など隅の汚れを洗うのに適したナイロン製のキッチンブラシですが、「おろし金を洗うのにちょうどいいのよ」と自らの経験を伝えて大ヒットさせました。

 

ほかにも、電子レンジにひっつくシリコンミトンや鍋ぶた置きなど、日々の生活の中で自分自身が困っていることをお客様と共有・共感し、解決策を探っていける販売員です。

 

その共感力が、お客様の満足度を高めているのです。

 

飯田屋が育てたいのは、お客様に寄り添える人材です。日本でいちばん売るのが上手な店になりたいとはまったく思いません。でも、料理道具で困りごとを抱えたお客様が、日本でいちばん気軽に相談できる店になりたいという野望はあります。

 

だから従業員には、どれだけ目の前のお客様に寄り添えるかで自分に誇りを感じ、それを会社への貢献としてほしいのです。「飯田屋の店員さんたちは、説明するだけでまったく商品を売ろうとしないよね」と外で評判になっていると聞いたとき、着々と野望の実現に近づいているなとニヤニヤしてしまいました。

 

飯田 結太
飯田屋 6代目店主

 

 

※本連載は飯田結太氏の著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)を抜粋し、再編集したものです。

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

飯田 結太

プレジデント社

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