(※写真はイメージです/PIXTA)

スマートフォンやPCの普及などにより、現代人の多くが目を酷使する生活を送っています。目がかすむ、ピントが合わないなどの「見えにくさ」を感じた経験は誰しもあるでしょう。痛みや違和感がなくても、こうした「何気ない症状」が実は、失明リスクもある怖い病気のサインであることも少なくありません。眼科 かじわら アイ・ケア・クリニック院長・梶原一人医師が解説します。

放置禁物…「モヤがかかったように見える」の原因

■「モヤがかかったように見える」は重篤な病気が隠れている可能性大

A. 「モヤがかかったように見える」と訴える患者さんは、どんな原因であれ「目がかすむ」場合よりも重症なことが多いです。モヤがかかったように、ぼんやりとしか見えない場合、白内障や緑内障、それも“末期”であることが疑われます。

 

また、糖尿病が原因で起こる「糖尿病性網膜症」も多いです。糖尿病になると、血液中の糖が増えて血管がもろく、破れやすくなります。目の奥の網膜にある血管は、特に高密度に張り巡らされているので、詰まったり出血したりしやすくなります。

 

「糖尿病性網膜症」は放置すると永続的な視力低下の原因となり、受診をためらっているうちにあれよあれよという間に進行し、最悪の場合、失明に至ることもあります。

 

出血以外でも、血管から水分が漏れ出して、大切な網膜がじわりじわりと弱っていく「黄斑浮腫(おうはんふしゅ)」という状態になると、「モヤがかかったように見える」ようになり、こうなるとなかなか回復することがありません。さらに血管が障害を受けて機能しなくなると、体は酸素や栄養を届けようとして別に新しい血管をつくり始めます。この「新生血管」はとてももろく、出血などが起こりやすいため、しばしば大出血を起こします。その結果、急にぼんやりとモヤがかかったように見えるようになります。

 

Q. なるほど、ぼんやりとしか見えないときは、重篤な病気が隠されている可能性が高いのですね。

 

A. そうです。モヤがかかったように見えるのは、眼底に出血しているケースが多いです。眼球の一番奥にある網膜と、そのさらに後ろ側にある構造を総称して「眼底」と呼びますが、網膜の手前にあって眼球内を満たす透明なゼリー状の「硝子体」を含めて、広い意味で「眼底」と呼ぶこともあります。そのため、網膜や硝子体に出血が起こることを「眼底出血」といいます。

 

出血が少量であればまったく症状が出ないこともあります。しかし、網膜の中心にあって、モノを見るための視細胞が集中している「黄斑部(おうはんぶ)」が出血でおおわれると、真っ黒で見えない部分が出ます【図表】。

 

出典:梶原一人著『放っておくと怖い目の症状25』(ダイヤモンド社)より
【図表】「黄斑部」の場所 出典:梶原一人著『放っておくと怖い目の症状25』(ダイヤモンド社)より

 

また、卵の白身のようなゼリー状の物質である「硝子体」に出血が及ぶと、黒いもやもやした影が見えたり、墨汁(ぼくじゅう)を流したようにぼんやりとしか見えなくなったりします。「糖尿病性網膜症」で網膜が出血するのは、代表的な眼底出血の1つです。

 

■「高血圧」「糖尿病」「高脂血症」などがある人は特に要注意

Q. 眼底出血以外でも急に見えなくなることはありますか?

 

A. 眼底出血の主な原因の1つは、目の奥の血管が詰まることです。「血栓(けっせん)」(血のかたまり)によって血管が詰まることがありますが、その背景には「動脈硬化」があります。

 

「高血圧」「糖尿病」「高脂血症」などの生活習慣病を抱えていると、動脈の血管壁が硬く厚くなり柔軟性が失われ、動脈硬化が進みます。さらに血管の内側(内皮)に脂肪分が蓄積していくと、血栓ができやすくなるのです。目の外から血流に乗って血栓が流れてきて、目の動脈で詰まると、出血は起きませんが急に見えなくなります。

 

私のクリニックにも「昨日まで普通に見えていたのに、突然、ぼんやりとモヤがかかったようになりました」と来院された40代の女性がいました。この女性は目の動脈が根本で詰まってしまう「網膜中心動脈閉塞症(もうまくちゅうしんどうみゃくへいそくしょう)」という失明率が非常に高い病気でした。私は同じ病気の患者さんを数多く診てきましたが、ほとんどの人は失明しています。

 

失明した人に共通するのは「見えにくいけど少し様子を見よう」と考えて、すぐに眼科を受診しなかったことです。網膜は脳と同じ神経細胞でできているので、血流が止まると数時間で死滅してしまい、再生不可能となります。様子見をせず、すぐに眼科を受診したうえで、適切な処置を受けても間に合わないことさえ多いのです。

 

この40代女性の場合、朝症状に気づいて、午前中には私のクリニックを受診。すぐに血栓溶解薬を点滴するなどして治療し、幸いにも視力を失うことはありませんでした。私の眼科医人生の中で、この病気で失明しなかったのは、この女性を含めて3人だけです。この女性は、その後も3人の娘さんとともに、定期検診を受けています。

 

「急にぼんやり見えるようになった」と、突発的に起こる症状は失明につながる病気が多いです。どうか様子見はせず、症状を自覚したらすぐに眼科を受診してください。

 

視界がぼんやりとしてきたら

●一刻を争う場合もあるので「様子を見よう」などと思わず眼科を受診。


 

梶原 一人

眼科 かじわら アイ・ケア・クリニック 院長

※本連載は、梶原一人氏の著書『放っておくと怖い目の症状25』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・再編集したものです。

ハーバード×スタンフォードの眼科医が教える 放っておくと怖い目の症状25

ハーバード×スタンフォードの眼科医が教える 放っておくと怖い目の症状25

梶原 一人

ダイヤモンド社

痛くもかゆくもないのに失明寸前!?「ちょっと様子を見よう」が悲劇の始まり。 「モノがぼやけて見える」 「視力が下がってきた」 「目がかすむ」 そんな気になる目の症状を放置していませんか? 目の疾患には、これ…

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